見送られ、自転車をこいだ。
胸の中が先生でいっぱいになっていると、少ししてカイリが「あのさ」と口を開いた。

「先生とお前、どういう関係なの?」
「東京にいた頃、書道を教えてもらってたんだ」
「ああ。ひとりだけ生徒を持ったことがあるって言ってたな。なんだハナだったのか」
「え? 先生、私のこと何か言ってた?」
「なんだっけ。個展の最中に、突然小さな子に弟子入り志願されて驚いたとか。だけど素直ですごく成長が早くて、のびのびとした明るさを感じる文字を書く子だったとか言ってたな」
「……そうなんだ」
そんな風に見られていたのか。
「今も書いてるのか?」
「え?」
「そんな風に感じなかったから」

さっき浜辺で書いた文字を思い出す。
自分でも、ふがいなかった。
カイリは感がいい。だから、何気ない言葉が真実に聞こえて、胸に突き刺さる。
ハナがブレーキをかけるので、カイリも止まった。