話し終えると、カイリは息を吐いた。
「それから、よくわかんないけど先生の家にたまに遊びに行くようになった。自分のも彫ってほしいって、仕事だよってお願いされて、先生のも彫ったし」
「それで友達になったんだ」
「うん。創作友達だねって言われたから」

先生はカイリの才を認めているのだとわかると、胸がチクチクした。
羨ましいと言いたくなって、耐えた。
カイリの彫ったものには、純粋さがあった。不純なものがなく、ただそこに在るだけというような。
純粋なものには、何も敵わないというのをハナは知っていた。
だから、言わなかった。

「あっ」と言うと、カイリがハナの髪に触れる。
「花、落ちそうになってたぞ」と、ハイビスカスをつけ直す。
「忘れてた。ハルカくんがつけてくれたんだよね」
柄じゃないと思われたかもしれないと、恥ずかしくなる。
カイリは、じっと見つめて「ついたぞ。ここまで来るのに、よく飛ばなかったな」
「確かにそうだね」
言われてみると、風もあったし、藪もかきわけて来た。
「飛ばないように守られてたみたいだな」
「守られてた?」
「よくわかんねーけど。じゃあ俺は、もう帰るからな」と立ち上がったので、ハナもそうした。

自転車を置いた場所に戻ると、周りの空気がやわらいだような気がした。

「ハナ」

優しい声で呼ばれて、顔を上げる。
道の先に、先生の姿があった。