「カイリ、すごいだろ」
そう言ったのは、ミナトだ。ソウメイをじっと見た後、おもむろに自分の履いていた紫の島ぞうりを脱いで見せた。ミナトの好きなアニメのキャラクターが彫られている。
「可愛らしいね」
「カイリが作ってくれたんだ」と得意げに言う。

当時のカイリは、自分には何の才もないと思っていた。運動神経のいいハルカとも、勉学が得意なナギサみたいにも秀でるものはない。大体のことはそつなくやれるけど、それだけのように感じていた。

そのせいで、手先が器用であるということにも、まったく気がついていなかった。
島ぞうりもなんとなく彫ってみたら、ミナトがすごく喜んでくれたので、試しに自分のものも彫ってみたら、思ったよりもいい出来だと感じていたくらいで。

「今度、君が彫っているところ、見せてくれるかな」
ソウメイにお願いされると、どうしてかそうしたほうがいい気がした。
頷こうとすると、ミナトが「いいど! 特別だからな!」と代わりに元気よく返事をした。