一年程前になる。
カイリとソウメイはこの海で出会った。
その日は、ミナトが秘密基地で遊びたいというので、ここまで連れてきた。
自分は岩に座って、水に足を入れて遊んでいるミナトの様子を見守っていた。
だんだんと眠くなってきて、大きなあくびをしたところだった。

「これ、君が彫ったの?」
突然、声をかけられて驚いた。なんの気配も感じられなかった。
見上げると、色の白い奇麗な男性――ソウメイ先生と呼ばれるひとがそこにいた。
これの意味がわからず、視線を追うと脱いでいた島ぞうりを見ていたことに気がついた。右足には海亀、左足にはガジュマルを彫ってある。
うんと短く答える。

「すごいね」
「そうかな」
「そうだよ」

おじぃから、篠宗明という有名な書道家が移住してきたという話は聞いていた。
前にナイチャーが別荘にと建てた家を買い取って、居住してるらしい。
姿を見かけたことはなかったのだけど、ひとめで、このひとがその篠宗明という書道家だとカイリはわかった。