「は?」と、カイリが首を傾ると、ハナは落ちていた枝を拾って砂浜に大きく『凪』と書いた。
それを見下ろして、ハッとする。思わず枝を手離した。
「びっくりした。なんだよ、お前、宇宙だな」
そう言ってカイリが、波打ち際にあった太い流木に腰をかけた。

「へへ。ごめん」
笑って、ハナもカイリとは逆向きに海を見て座る。また少し落ち込んでいた。
水に足をつけると島ぞうりが波にさらわれる。
あっと慌てるのを聞いて「バカ」とカイリがそれを掴み、ハナに手渡した。
「ありがと」
カイリも同じ向きに座り直すと、自分の青い島ぞうりが流されそうになり、慌てて掴んだ。
同じようになったので、笑う。

ふと、胸に爽やかな風が通った。
「綺麗」
そう呟いたのは、彼の島ぞうりに彫られていたものがあまりに美しかったからだ。
「見せて」とカイリの持っていた島ぞうりを奪うと、そこに彫られていたのは、藤の花のような細かく繊細なものだった。
遅れて、ヨウイチがカイリの島ぞうりは芸術だといったことを思い出した。

「すごいね。私に今度、これを彫っているところ、見せてほしい」
ハナが感激していうと、カイリはふっと笑った。
「ダメかな?」
「お前、先生と同じこと言うんだな」