閉めていた障子がガラリと開くと、部屋の中に日が射し風が通った。
振り向くと、黒髪の少年が立っていた。背はナギサより少し高いくらいで、歳は近く感じる。長く伸びた前髪が揺れて、猫のような瞳があらわになり、再び隠れた。
初めて会うはずなのに、ハナはどうしてか既視感を持った。
少年は人がいると思っていなかったのだろう。気まずそうに「悪い」 と謝る。ハナからは見えないのだけど、目を大きく見開いて戸惑ってもいた。
「はい」
「荷物」だけ言うと、ハナがヨウイチに預けたスーツケースを置いた。
「ありがとう」
驚いて、涙はひっこんでいたのだけど、慌てて目元を拭った。
彼は「じゃあ」と行こうとする足を止めた。
「ソウメイ先生の」
壁にかかっていた書をじっと見ているので、ハナは頷いて「見る?」と招いた。