ハナは呟き、眺めていると「ソウメイ先生のこと知ってるの?」とナギサが訊ねた。
「うん。私、ソウメイ先生に書道教えてもらってたの。ナギサくん達もソウメイ先生と知り合いなんだね」
「うん。沢山、話はしたことないけど。有名な書道家ってことは知ってるよ。すごいね、そんな先生に書道教えてもらってたって」
「うん」
頷きながら、恵まれていたなぁと振り返る。あのとき、先生は他に弟子などとらなかった。自分一人に教えてくれていた。
胸がギュッとした。
先生に会いたい。会いたいけど、今の私のことを先生は心よく迎え入れてくれるだろうか。

「先生のお家なら、この先を進んでいくとあるよ。自転車なら5分もかからないかな」
「そうなんだ」
それでも先生がそんな近くにいることが、嬉しくなる。取り戻したい。失ってしまったものを。そんな思いがハナの心を過っていく。
「よかった。先生は作品を書き続けてるんだね」
昔みたいにもてはやされなくなっただけで、本当に書道家として活動していたのだと、書に触れて実感する。