「ううん。それより、ピンチヒッターありがとう」とハルカが言う。
今日みたいにダイビングショップがノーゲストのとき、ヨウイチは知念のおじぃの民宿の送迎などを手伝うことがあった。
その背後から、ひょこりとカンカン帽子をかぶった初老の男性が顔を出した。
「ヨウイチのふぁー(子)ば」
知念のおじぃだ。小柄だけど、しっかりした顔立ちに白髭をたくわえている。
だいぶラフな格好をして、どこか若々しかった。

「おじぃ、那覇に行ったんじゃなかったの?」とハルカが訊ねる。
「沖縄に今からよ。あがや。ヨウイチに似ないででーじ(とても)あっぱりしゃん(可愛い)だね。おじぃ、今から、沖縄に行くからよ。帰ってきたら、お話しましょうね」 と陽気に話しかけた。
「知念さんですか? いつも、お父さんがお世話になってます」と言うと、「おじぃでいいからよ。ばんない(沢山)月島、楽しんで」と高々と笑って、高速船の方へ向かって行った。

「旅行に行くの?」
「うーん。仕事と称した、ただの酒飲み旅行だよ」とハルカが呆れたように呟いた。