「そうなの? あれから好きな子出来なかったの?」
「出来なかったな。家も少しバタバタしてたし、離婚が決まってこっちに転校したけど、そういう風に思える子、いなかったし」
「離婚……そうなんだ。それでこっちに転校したの?」
「うん。離婚して、急にこっちに来ることになったからさ」
「そうだったんだ。大変だったんだね。あの頃、なにも知らなかったな。ごめんね」
もしかして一緒に遊んでいたときも、家のことで悩んでいたりしていたのかもしれない。そんなのおくびにも出さなかった。

「なに言ってんだよ。あのとき、支えてくれたの、前園だから。すっげー感謝してるよ」

その言葉に、ヒバリは涙ぐんだ。急に黙ってしまったせいか、ヒバリが泣いていることにカイリがすぐに気づいて
「どうしたんだよ」
「だって、嬉しくて。私、本当にカイリくんに嫌われたと思ってたから。そんな風に感じてくれてたなんて知らなかったから」

自分の見ていた景色とヒバリの見ていた景色は違うものだと思う。あの頃、互いに自分の世界があって、その中で重なり笑いあえるあの空気に安らぎを感じていたのは、本当だ。