優しかった先生の笑顔が風のようにかすめていく。
「……会いたい」
「ん?」
「お父さん、私、もう一度、先生に書道教えてもらいたい」
「おう。じゃあ、遊びに来るか?」
「遊びじゃなくて、そこに住みたい。先生にもう一度、弟子入りさせてもらいたい」

ヨウイチは書道教室がなくなってからのハナの様子を知っている。
どこか心の支えを失くしたようにカラ元気だった。他の書道教室に通い始めたけれど、窮屈さを感じて、あまり通わなくなり、先生との連絡が途絶えてからは、筆も握らなくなったと聞いていた。
先生の教室はとても肌があっていたようで、いつも活き活きしていたのになと心のどこかで気にしていた。

おまけにもうひとつ、ヨウイチはとても気にかかることがあった。
だから「じゃあ、おいで。家はどうにかするから」と優しくハナに伝えたのだった。