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その日は、特にすることもなかったので、ハナはひとり島を散策に出かけた。
途中、レンタサイクルを覗くと、ナギサが当番をしていた。
「忙しい?」
「ううん。全然」と本を片手にくつろいでいた。
ナギサと立ち話をしていると、こっちに向かってくる少女が見えた。
お客さんかなと気づいて、そっと脇に立つ。
少女がレンタサイクルの前まで来ると、ハナと目が合った。
「……あれ?」
「ハーちゃん?」
「ヒーちゃん!」と互いに目を丸くした。
ヒーちゃんと呼ばれる少女は、前園ひばりと言って、ハナの地元の同級生だった。
ハナとは小一から仲が良かったのだけど、彼女が高学年になったときに転校してしまった。
都内の学校とは聞いていたのだけど、いつの間にか疎遠になってしまった。
まさかこんなところで会えるとは思ってもみなかったので、本当に驚いた。
可愛い容姿と穏やかな性格は、男子からとても人気があったのだけど、数年経った今も、愛らしいままだ。