「あの、私、保健室を探してて……その、怪我、しちゃって」
「うわー、痛そう……とりあえず、そこの水道で洗ってから、保健室行こう。僕が案内するから、安心して」
そう言ってその人はそっと微笑む。
その瞬間────私の胸の奥で、何かが弾け、光が差すような感覚を覚えた。
その人の眼鏡の奥に見える、優しい微笑み。
今までに見たことのないような、温かな表情に、思わず見とれそうになってしまう。
なんだろう、この笑顔は。まるで、私の心まで、温かくなっていく気がする────
「じゃ、傷口洗っとこっか」
そう言うその人に案内され、まずは水道で傷口を洗い流す。
「じゃあ、保健室行くから、僕について来て」
「は、はい」
私がまだ行っていない校舎の方に向かって歩きだすその人の後に、私もついて行く。
「……えっと……それにしても、大きな傷だね。何があったの?」
「自転車で転んじゃったんです。校門の段差に引っ掛かって……」
「あぁ、昨日の雨で地面濡れてるし、滑りやすそうだよね……」
知らない人同士でまだぎこちないながらも、二人で話しながら歩く。
この人の声は、なんだか温かくて、優しくて、聞いているとなんだか────安心する。
やがて、「保健室」の文字が見えてきた。
「ここが保健室ね。覚えとくといいよ。今、開いてるかな?」
その人はそう言って、保健室の窓を覗き込む。
「……うーん、今は開いてないみたいだね。先生、入学式の準備のほうに行っちゃってるのかな……」
「えっ、じゃあどうすれば……」
「でもその傷の様子だと、絆創膏なかったらきついよね。入学式の間ずっとティッシュで押さえとく訳にもいかないでしょ」
「そうですね…」
その人は少しの間考え込んだ後、ふいに口を開いた。
「…あっ、そうだ、僕これからあっちの方の吹奏楽部の部室に行くんだけど、誰か部員が絆創膏持ってないか聞いてみるよ。時間大丈夫?」
「大丈夫ですけど……いいんですか?そこまでして頂いて…」
「大丈夫大丈夫。困ってるんだったら安心して欲しいし、それに、うちの部の宣伝にもなるから!」
そう言ってその人は微笑んだ。
その笑顔に、再び胸が温かくなる。