『キィーーーーーンンン』
『グオーーーーーツツツツツ』
『ゴオオオーツツツ』

レンとカスガが 仰ぎ見る中、
爆音を轟かせて、戦闘機が着陸
するため急旋回して降りていく。

ベースオペレーション屋上。

頭上で、コンバットブレイクしているのを、カスガは 目を輝かせ
て見守る。
何かしゃべるが、レンには聞こえ
ない。

レンとカスガがいる、小松空港。
本来は『小松飛行場』が正しい。

何故なら、いわゆる、
航空自衛隊 小松基地の滑走路を、
民間航空機が借りている
空港だからだ。

旅客機と、戦闘機、又は
練習エアバスが まるで隣に
合わせて存在するように見える。



レンとカスガは、朝早くホテルをチェックアウトして、午前中1番の小松基地見学に参加していた。

『キィーーーーーーーン』
『ゴオーーーーーツツツ』

という甲高い音、
空気を裂く音が聞こえる。
そして、起こる風。

まるで 延々、雷鳴が響いている。
そんな感覚だ。

夏、風が強い時は ランウェイ24を使って、アーミングエリア
=滑走路入り口にある駐機場で
F15が 最終確認を して飛び立つ。


「訓練は午前中が多いようだな。
今日は、戦闘機やヘリも、飛ぶようだが。」

レンは F15を 見つめて、
カスガを見る。

小松基地の隣は 企業城下町がある。
太平洋戦争中も、軍事産業に携わってきた。それが発展し、今や建設機械の大手企業があるのだ。

基地で使われる 重機や装甲車。
小松市は基地やその企業関係者の多い街。

「小松にとって、24時間この 戦闘機音は 生活音だからな、カスガも間近で聞いておけよ。」

そう説明して、出張最終の今日、
事前予約をし、レンは基地の見学にカスガを連れてきたのだった。

レンは、カスガに 電話で互いに話をする旨を、 手で合図を送る。
音が凄いのだ。

日本海を隔て、
航空機で約1時間という、諸外国に
極めて近い事から、日本海側で
唯一、空の守りを 固める戦闘機部隊が所在する 小松基地。

小松基地は領空侵犯措置の任務には時に、舞鶴の海上自衛隊の、イージス艦と連携して、空と海の防御をする。

小松飛行場は、文字通り 空港よりも、荒野の滑走路のイメージだ。


「カスガ、真ん前が空自のハンガーだ。滑走路側は撮影も可能だよ。
カスガの望遠で撮れば 良く撮れるからな。」

電話ごしに、そうカスガに伝えると、カスガが 了解とばかりに、親指を立て合図する。

そして、首に掛けた望遠カメラを構えた。


背尾に 『ファイティング・ドラゴン』『ゴールデン・イーグル』をマークにした F15達。

小松では この戦闘機体を50機、
配備している。

今度は、離陸するF15。
エンジンの音が ものすごい爆音を上げて エア音と重なる。

離陸までの迫力は、高揚する
ような 未知への畏怖のような。

『グァアアアアンンンン』

高速で低空離陸し、足が素早く格納。翼をまるで垂直に傾ければ、鋭角に旋回して高度をグイんと立ち上げる。



結局、
カスガは 深夜遅くになって
宿へ戻ってきた。

帰ってきたカスガは、左手を
レンに見せて

『ハジメオーナーにっ! 担保されたっす』

と、笑った。
その顔が サッパリとしていた事と、空になっている指が、
だいたいの事情を物語る。


「先輩!凄いっすね、あんなに一気に旋回して高度あげてっ!」

カスガは 望遠カメラを 動画に
して、戦闘機を追いかけている。

一時の小松基地は、
年間で1000回以上のスクランブル。
3日に1度はスクランブル状態だった。
凄まじい 冷戦時代も経験した
基地は、常時 5分で スクランブルができ、小松基地の管制で
24時間離着陸が可能だ。

「カスガの突拍子のない、行動と、 あの舞い上がる 機体が重なって俺には見える様だよ。」

レンは、目を細めて、ここぞとばかりに カスガに嫌味を投げつけた。
目を機体に向けたままに。

ギクリとした様子で、カスガが
そんな レンを見て、

「すいませんっしたっ」

と、折れる勢いで 頭を下げて
誠心誠意の姿で 謝った。

『オオオオオオオンンンン』

24時間体制。
だからこそ、民自共に、パイロットが安心して 着陸できる空港でもある。
その為、日本海でトラブる外国機が緊急着陸してくる事もあるのだが。

レンは、そんな小松の夜の姿を
ふと、思い描いた。そして、

レンは、大きく、 それでも
爆音に消されるだろう、
溜息をついて、カスガに 頭を上げろと手で合図した。
ションボリとした、カスガが

「先輩、そろそろ 帰りたいっすね。」

電話ごしに、思わず 呟くのを
レンは、拾った。やれやれと、レンは口を弓なりにした。

「カスガのところ、まだまだ家族
増えそうだな。」

その言葉に、カスガは、気まずいながらも、

「先輩!あれっすよ、さっき 空自の広報でみた、LOVE&PEACE !」

と、何故か自信満々で言い切った。

「お前、やっぱり、、」

レンはカスガの顔に、 残念な視線を向けて呆れる。

『フアイティング・ドラゴン』の魂は、『平和と安全』を守る意気を示しているのだ。
お前、怒られるよ。

たが、そんな カスガに、とうとう レンは大声を上げて笑った。

「ア、ハッハッハ!!お前、凄いよ。本当に、ある意味、この仕事に向いている。」

『ギィイイーーーーーーーンンンン』


「ハアー、それに 何より『引きが強い』。運が強いのも、能力だよ。頑張れよ。子供達もいるんだからな。十分 俺を越えていけるよ。」

カスガは、レンを見つめた。

「先輩。 オレ、どーしようもなく
ガキなんですよね?」

レンは 旋回から 直線に、高速 横移動を 空で展開する、機体を見ながら

「『あの時』はそう思ったよ。でも 今は少し違うな。」

カスガの問いかけに 素直に応える。
もうすぐ、基地の訓練も一段落
なのだろう。広報の係が、
合図をしているのが見えた。


「ちゃんと、自分の欲を見て、
ちゃんと、向き合って、ちゃんと進化してる。お前、俺の周りで
1番、愛すべき『人類』らしいよ。」

レンは、カスガに 広報係を
指差して、歩き始めた。それでも
まだ、電話は繋がっている。

「恋や愛とかに、ゴールがある
なら、そこまでお前は 突っ走れ
るんだろ」

レンは、歩きながら カスガを
見つめ、言葉を重ねた。

風が降りてくる。

「俺や、ハジメさんみたいな奴じゃあない、カスガみたいなのも
いるなら、安心だよ。きっと、」


そうして この後時間まで、
空港に屋上デッキのビアガーデンがあるから行くか?
まるで映画みたいなビューで
最高だぞ、戦闘機見ながら
だからな。と

「まあ、飲めないがな。まだ春江がある。この辺りの空港は 、知ってる方がいい。家が恋しいだろうけどね。」

レンが また 爆音の中で 笑った。

カスガが 見上げると、
雷鳴音が突っ込んで、
下降し始めるのだ。

青空の中、白い筋を上げて

F15の機体が 風と共に

帰えって来る。

青い空から 帰る。

その機体と、レンの背中
そして、空の指を見て、

カスガは、
やっぱり早く 帰りたいと

張り付く潮風に

喉が沸くのを

感じた。



2020年5月19日 昼 脱稿
さいけ みか