『キーン♪コーン♪カーンン コオーン…』


キャンバスを

サカキバラから
取り上げられた、カスガは

拘束まではされないものの、
ハジメとレン、サカキバラ夫妻を前にして 、
アンティークチェアに 座らされいる。

アトリエで 暴れられては困ると、
カスガを連れて、同じ1階にある サロンに 一行は場所を移した。

その際 キャンバスは
2階のオーナーズルームに、
マダムが持ち上がり鍵をしている。
一応、キャンバスは カスガの手前、布を覆って保管となったわけだ。


サカキバラ夫妻は、
サロンカウンターの向こうに
影を潜め、存在を消す。



『あの絵、、オレが、、その、 高校ん時、描かれたヤツ、っす。』

観念した カスガは 少しずつ
不可解な行動の 理由を、洩らし
始めた。

そうして、
カスガの 心証風景に ハジメと
レンは、聞き入っていく。

青い、学生時代に訪れる
夕暮れ時の刹那の時間に。




『キーン♪コオオオーン、』



授業の終わりを告げる
チャイムが、教室に響くと、
担任が早速 終礼をする為か、
教室に入ってくる。


「あれが、Assoc君が恋する君って事かな~?なかなか、可愛い子だよねぇ。家庭的な感じかも~。」

カスガの 熱心に視線を注ぐ、
その先には、1人の女生徒が、
髪を なびかせ 座っていた。
放課後に入る前の 慌ただしい
空気の中で、彼女の周りだけが
光って見えた。

「変な目で 見んの、やめてくださいっ。その 意味が、わからないっ。オレ、彼女、入学ん時から、ずっと好きだったんすから!」


ハジメは カスガに構わず、
廊下の窓から 顔を突っ込んで
教室の中を、 興味深々に 彼女
以外のクラスメートも 眺める。

「ハジメさんは、家庭的な女性が一番の条件でしたよね?」

レンがハジメの様子を見て、
言い放った。レンの 言い方で、
ハジメが、自分の理想に叶う
女生徒を、物色している事が
分かる。

それを聞いて 赤面した カスガは、慌てて ハジメの目を 自分の方に
反らさせた。

「Assoc君、もしかしてぇ、彼女は初恋の君ぃ?」

ハジメが 揶揄って、
そんな カスガの肩を小突いた。


「さすがにっ、初恋じゃ、ないっすけどっ、、」

それを、レンは 顔色を変えず
見ている。ハジメは、今度は
レンの顔をマジマジと観察する。

「Dirって~、初恋は いつぅ?」

カスガは、ハジメの台詞に
ギョッとするが、関心満杯で
レンの返事を待っているのが、
わかる。

「3才です、けど?」

「早っ!」

思わず 口にしたカスガが、
レンの視線に 下を向いた。
ハジメは、口笛~♪で
レンを煽る。

終礼も終わったのか、担任が
教室を出ていくと、生徒達も
各々荷物をまとめて、教室を
出てい来きはじめる。


高校時代のカスガは、生徒鞄と
一緒に、カメラバックを持って
教室を出ようとしていた。

「カスガ、高校から映像だったのか?」

レンが、高校時代のカスガを
見て、カスガ本人に 聞く。

「いえ、高校は普通っすよ。クラブで写真してて。それから、大学で映像工学はじめた感じっす 。クラブは、写真甲子園とか出てて、活動が活発だったんでっ。」

カスガが、慌ただしく離れた。
例の彼女も 荷物を持って、
クラスメートに声を掛けられ
ながら、出て行ったからだ。


「ハジメさん。初恋してます?」

レンは突然、ハジメに真面目な
顔で言ってくる。

カスガを先頭に、ハジメとレンは
彼女の後をついて、
校内を歩きながら 校内の様子も
伺っている。

「Dirはぁ、失礼だなあ~。私も初恋ぐらい、小学生でしているよぉ。ありがちだけどぉ、ほら 小学生って、勝ち気な女の子とか 友達の延長で 好きに成っちゃうでしょ~?」

そう レンを見たハジメに、
カスガさえも疑いの目だ。

「じゃあ、告白、しました?」

レンが、ハジメに突っ込んで
くる。
掃除当番の生徒が、バタバタと
遊びながら 箒を使っている。

放課後の活動に行くだろう、
生徒達も慌ただしく 三人の回りを
行き交かう。

「なんかさあ~、高校建物の感じが、シンプルだよ?こんなモノなのぉ?」

キョロキョロと教室や廊下を
珍しそうに見回しながら
ハジメは 続けた。

「告白!したよ~!でも、他の男子も皆いたんだよねぇ。これが~。クラスの勝ち気な、マドンナだったからさぁ。Dirって~どうして そんなに私に聞くのぉ?」

三人は、彼女を追いかけて
特別教室棟らしき建物へ
やって来た。

「貴方の、 恋愛観が、何時からかと、」

「・・・」

そう レンに聞かれて、
ハジメ自身が 目を瞬きさせた。
そして、

「どうかなあ。いつが、家庭的が理想の、始まり?かあ~」

廊下のずっと奥を見るように、
ハジメは呟いた。



追っていた彼女の姿が消えたが、
カスガは さして急がない。
彼女の行き先が 解っている
素振りだった。

「彼女、これから クラブ活動なのぉ?」

空気を変えるように、ハジメが
カスガに聞いた。

テニスコートが二面グランドに
作られ、ラケットを手にした
生徒が、備品の籠を運んでいる。

カスガは 彼女の行き先なのだろう、棟の階段を登って行く。
どうやら ハジメの足は、
ここでは疼かないらしい。

「彼女は 美術部っす。ここの先が、美術室で。」

三人は、 階段を登る。
ハジメは、各階をわざわざ
覗き込んでは 楽しんでいる。
まるで、女子高の学祭に来た
男子校生みたいだと、カスガは
ひっそりと 呆れた。


先を行く 彼女は、
美術室と表示が出る教室の、

隣の引き戸を開けて入って行く。

「今、彼女が入ったとこが、教員準備室なんですけど、」

カスガは、美術室に入って、
隣の教員準備室と繋がる
ドアを開ける。

美術室には、
明かり取りの窓が天井にあり、
デッサン用の彫像が並んでいる。

壁には、簡易イーゼルが数十脚、重ね置かれていた。

「カスガが持っていた、キャンバスのモデルが、彼女という事だね?カスガ?」

隣とのドアを開けると、
衝立の向こうに、

大判キャンバス用のイーゼルが
見える。

レンは

そのイーゼルに、
キャンバスが置かれて、
男性の足が、下から
見えているのを見つめて

聞いたのだ。

男性の上半身は、キャンバスに
隠れて見えない。

「あそこにいるのは、若かりしMy maestroだよねぇ?Assoc君? ということは、そうなんだ、彼女が 最後のモデルかぁ。」


隣に 先ほどの彼女が 笑顔で
座っているのが見えた。


目の前の 光景を
衝立のこちら側から、
食い入る様に見るカカスガは、

無言だ。


教師と、彼女と、それを見る
カスガの様子。
ハジメも、レンも、
なんだか 居心地を悪く感じる。


「先生は、、非常勤で 美術を教えて、て、」

カスガの歯切れは悪い。

窓から指す 明かりに 照らされ、
ボンヤリと明るく 彼女と、
教師が 浮き出される 。

幻灯機に写し出されるような
二人を 見ながら、
レンは 腕組みをして 言い放つ。

「教え子をモデルにしていたということだろう。何年かすれば、別の学校っで、またモデルを探すというところかな。」

そんな 非情な台詞を吐く
レンを
ハジメは、眉間に皺を寄せて
非難する。

「なんかぁ、言い方に刺あるんじゃない Dir?」

ハジメとレンの雲行きを見て、
カスガが 仲裁に入った。

「へんな先生じゃないっすよ。男女の生徒に人気あったしっ。先生が、三年の女子をモデルに 絵を描くのは 有名ってか。その絵は、絵画展に出るんで、結構モデルは名誉な感じっつー、女子の憧れって感じでしたっ。」

三人は、改めて モデルをする
彼女と、イーゼル前の教師を見た。

「だから、二年の時に、先生が三年の先輩モデルで書いてたのも、皆、知ってますっ!」

気が着くと、幻灯機の二人の
後ろにも、描かれたキャンバスが壁に飾られているのに、
ハジメが気が付く。

「『No.11』ってことぉ?」


「はいっ。」

カスガが返事をする。

それを 良く見れば、
紫陽花色の気球が背景に、
後ろ姿の女子高生が描かれた
絵画だ。

『コンコン!』

すると ドアがノックされ、
高校時代のカスガが、カメラを
持って 準備室に入ってきた。

「何やってるんのん?Assoc君は、ストーカーのカメラボーイ~?」
ハジメが、高校カスガを見て、やや怪訝そうに言った。

すると、
イーゼルの向こうの教師が、
カスガに声をかけ、
モデルをしている 彼女に
カメラを向けたのが 分かった。

「違う、違いますっ。あれは、 モデルにずっと彼女が来るのも悪いから、先生が写真を撮ってくれって、オレに頼んだんすっ!」

「で、おまえの分も現像したんだよね?」

レンの言葉に被さり、
カメラのフラッシュが光る。

「まあ、、そうっす。て、先生とこに 彼女が行くのが、嫌で。オレ、先生に 彼女が好きなんで、手伝って欲しいって。相談して、そしたら 先生が、彼女のモデルの時間減らすって!」

『 パシャ!!』
目映い光が 閃光になる。

「そうやって、先生を 牽制したんだな?」

『パシャ!!』


「は、い。」

「なんだか、ガキっぽいよな。」

写真を撮った後、
彼女は 美術室と繋がるドアから、外へ出て行った。


「え?」

「え~そうなかなあ?」

そうすると、高校時代の
カスガが、
イーゼルの向こうに居る教師に
現像が出来たのだろう

写真を渡している。


「いや、十代って 俺もそうだったのかなって思って。いや、カスガの場合は、若い小聡明さが 裏目に出そうで、危ういんじゃないのか?」

教師は、イーゼルの端っこに、

その写真を止めた。


「だから何が~?」

「ハジメさん、貴方は、 博愛過ぎるから、わからないですよ。」

レンが、ハジメを バッサリと
言葉で切り捨てる。そして、

「大人の余裕をぶっこいて、それこそ 彼女に おまえの気持ち、 教えてそうな 教師だな。」

カスガに 憐れな視線を向けた。

高校時代のカスガは、
その 渡したはずの写真を
勿体なさそうに、見つめている。


「止めてくれたまえ~、Dir。M y maestroは、大事なアーティストだよん。そんな、Dirみたいな、性悪じゃない~。」

今度は、レンがハジメに
瀬世ら笑うような顔を向けた。

「大事になるのは 後の話でしょ?」


そんな、高校時代のカスガに
教師は、
目もくれないで、
筆を動かしている様だった。

「先輩が、言いたい事は、、なんとなく、分かってっますよっ!でも、こん時は、こうすれば、一石二鳥だろって考えたん、す。」

「ねぇ~、彼女って。My maestroの事 好きとかじゃないの?」

「ハジメさん。」

「あのっ、それこそ、止めてくださいっ!」

「だって~、そうじゃないなら 普通モデルしないよん。」

「う、うぅ。」

そんな教師を 横から 見る
高校時代のカスガを、
ハジメとレン、
そして カスガ本人も 眺めていた。

『~♪ー♪、♪~』

吹奏楽部が練習を始めたのか
楽器の音色が、聞こえてきた。


「そうだな、 まるで、ガキっぽいよな。」

レンは、そう言って ドアから出る。
ハジメと、カスガも それに習った。


「でもさあ、Assoc君は 偉いよ!子供っぽくてもぉ、相手に、 My maestroに、ちゃんと宣戦布告してる~。」



ドアの外に出ると、
そこは 美術室ではなく、
ハジメのオフィス1階サロンだ。

ハジメは、
アンティークチェアに腰掛け、
レンも 続く。

「まあ、写真でも、先生とこにあんのは、めちゃくちゃ嫌 でしたっし、先生は人気あったっすから!言う時は、言いますっ。」

最後に、カスガが 腰掛けた。

「ふーん。だから、あの絵画も、俺達が見るのを 嫌がったのか?いつまで、ガキなんだよ?」

マダムが カウンターから、
出てきて
三人にお茶を出していく。
ハジメは、
マダムに笑顔で応えて、
出されたティーカップを
手にした。

「嫌なのは、嫌で、、すいませんでしたっ。」

そう言って カスガは
椅子に座ったままだが、
頭をテーブルに擦り付けて 謝る。

「まあ~、絵画を破損したとかじゃあないからねぇ。理由がわかれば 問題はないよ~。一応、今回はぁ」

ハジメが、口を付けて
満足そうにすると、
マダムがレンとカスガにも
遠慮するなと合図する。

二人も 甘い香りの
ティーカップに口を付けた。
濁みのないのに、

芳醇な甘薫り。

「それに~、初めて気がついたよ
。私は 小学生以来、ちゃんと告白なるものを、してないって事にぃ。」

レンは驚いて、ハジメに問う。

「これは、もしかして、月下美人のお茶ですよね?」

一瞬、
カウンター向こうの
サカキバラを見てから、
ハジメは、

口を弓なりにして

Yes と答えた。