ラクシュミー。

神々が『不死の薬』を造る為に
世界創造し、海の泡から出現した
ヒンドゥー女神。

そんな イメージが ぴったりとくる紺碧の 宗教画のような
『少女画』には、

『No.12』としかタイトルは無い。

というより、このアーティストの
絵画は、全てナンバリングのみの
タイトルなのだ。



ハジメは、カスガが 後ろに隠す様に持っているキャンバスに視線を留め、確認する。
絵画自体は、破損はなさそうだ。

木製イーゼルのネジは、

飛んでいるが。

もしかしたら、今の音で、サロンにいるマダムが 飛んで来る
かもしれないなあ~、とハジメは呑気に考えた。

レンが カスガを凝視したまま、
ハジメに 咄嗟に謝罪する。

「ハジメさん!申し訳ないです。うちのカスガが、粗相をした様で。カスガ、どうした?絵を倒してしまったか? 絵を見せて、確認する。」

レンは、カスガの表情を読みながら、近づいて行く。
と、カスガが 蒼白の顔で、
頭を振った。

「先輩っ、違う、違うんす。でも、これは、見せれません !」

後ろに持つキャンバスを
庇う様に、カスガは 二人から
距離を取る。

「「?」」

もし、後ろが崖なら、
それこそ飛び降りる雰囲気を
出すカスガの言葉の意味が、
ハジメもレンにも、
全く理解できない。

「カスガ!どうした?その絵、何かあるのか?おまえ、絵画とか、あまり興味あるとは、思ってなかったんだが。」

レンは、静かに、
そして宥めるように、
目の前で ガクガクと震える
カスガに、手を差し伸べる。

しかしカスガは口を結んで、
頭を振る。

レンは、ハジメを見て

「ハジメさん、すいません。何かあれば 弁償はします。ただ、例えば 変な絵とかじゃないですよね?」

ハジメは、動かない カスガを
前に、腕組みをして 静観してるが、
レンの台詞に 眉を大袈裟に潜める。

「止めてくれないかなぁ~Dir!いくらなんでも、精神に影響を及ぼす作品、ホイホイ置いとかないよ~。」
その 危ない ハジメの 答えに、
レンは小声で、
持ってるんですねと 呟く。

お、 アトリエの入り口に
マダムが 顔を出した。
そりゃそうだよね~。

「あのね~。そんな作品なら、もっと 高くなるもんなんだけど、残念ながら 『無名といえば、無名のアーティスト』の作品なの!今のところ!」

へぇー、というレンの視線が
ハジメを射ぬく。
そして、ご丁寧にも、レンは
入り口に向かって 会釈した。

カスガは、俯いて 無言のまま。

床には、
イーゼルが転がったままだった。

「このアーティストは、まだ 本人と 契約が出来ていないけどぉ。全ての作品は、私が 親族から、委託されているよ。だから、ゆくゆくは 全部の作品をシリーズにして 企画するつもりなのぉ。」

ここで、
カスガが 追い詰められた犯人の
ごとく、半狂乱になる素振りも
見せないからか、

ハジメは 近くにあった、
アンティークチェアに腰掛けた。

「Assoc君は、意外にも その作品を気に入ってくれた?という事かな~?。まだ、マーケットに出てないアーティストだから Dirにも お教えするよ。 弁償や、購入は これから ゆっくりとかな?」

ハジメは、カスガの持つ
キャンバスに 注視しながらも、
椅子の肘掛けに
腕を預けて組む。

「このアーティストはね、12枚、全ての作品を『少女』を題材に描いているんだ~。少女達は、その姿から全員 違う、女子高生。なぜなら、みんな いろんな制服を着ている 後ろ姿だからだよん。」

レンも、
ハジメの語る内容を
聞きながら、
カスガから 目を放さない。

「どれも、様々なブルーに 他の色をグラデーションで差し込み、背景COLORにしているのが、紫陽花みたいで綺麗だ。幻想的なんだよ。背景も 無数の気球だったりしてね。」

と 俯いていた、 カスガが ハジメを見つめた。

ハジメは、入り口に
サカキバラが 来ている事を
感じた。
とりあえず、もし Assoc君が
暴れても 安心だねぇ。

「でも、その 最後の
作品だけ ちょっと違うんだよ。いや、全然違うかも~?」

ハジメも、カスガの目を
見据え ている。
レンは、そんな二人を見つめ、

「ハジメさん、その、最後とは?作家は亡くなられた方ということですか?」

先ほどからの疑問を 挟んだ。




「判らないんだよねぇ。消息不明~。」

ハジメは、カスガから視線を
外さなかったが、この言葉に、

カスガの目に 、狼狽える色を
見ていた。

「海外に行ったままなんだよ。ねぇ、最後の作品が 他の作品と どう違うか、君の上司に教えたいから、そのキャンバスを こっちに見せてくれないかな~?」

レンは ハジメが 絵画の状態を
確認したいと、
カスガに 闇に交渉してきている
と考える。

けれども カスガの答えは、
意外なモノだった。



「知って、るっすよ、、これだけ、、後ろ向きじゃない、、正面の 、、裸の 女神だっ。」

そして、徐に 自分の上着を脱いでキャンバスに
掛け抱えた。

虚をつく 二人に カスガが
叫けび倒す。

「見るなあああっ!!こっ、、オレの だあああっ、、

同時に、
入り口から、屈強な サカキバラが
飛び出して、

床のイーゼルを カスガの首もと
にかませて、

カスガを 捻り上げた。

レンが、額に片手を翳して
深く、呼吸をしたのが、
全員に 分かった。