カスガは、
目の前でハジメが語る
様々な話聞きながら、
その姿を改めて 眺める。

年齢不詳。
どちらかといえば、
地味でも整った、
チャラい タレ目顔?

喋ると、
個性が爆発的なのに、
見た目が 印象に残り難い?

「奥が深い話過ぎて、訳がわからないっすね。」

カスガは思った。
ハジメの話にもだが、
ハジメ自身の印象としても、
これが 本音。

「そんな 高そうな色、個人じゃあ、使う事ないですしっ。」

大体、カスガの周りには、
麻白のスリーピースなんて着る
人間がいない。
ご丁寧に、手でステッチまで
されているのだ。

「だよねー。キロ11万円、大さじ一杯で、5500円かな。」

それこそ 名立たる探偵や
なんちゃら ジェントルマン
てのが、 夏に着てそうな
スーツなんじゃないか?と
話半分、カスガは思い
描いていた。

「Assoc君、買っていく?金より高い青だよ~。ハニーにどう?」

いや?!何、

「そんなの貰って喜ぶ嫁じゃないですよ。」

勘弁してくださいっ!!
とんだ、えせ探偵の、
押し売りだよあんた!

カスガが 気不味そうな顔を
浮かべるが、ハジメは 気にもしていない様だった。

「そうなの?
サムシングブルーって 花嫁のジンクスにあるじゃない!ブルーは、聖母の『純潔と愛』を意味する、と~っても意味ある色なんだよん。」

「あのっ!ハジメオーナー、

「永遠の愛は、赤でもピンクでもない!青なんだよ~。それとも、やっぱり、ラピスラズリの青が いいのかなぁ?」

全くカスガを、
眼中に入れてない風に
話し続ける ハジメに、
レンが うんざりした声で 制した。

「ハジメさん、戯れ言、そこまでですよね。あと、カスガは、新婚では 無いですよ。」

フゥと聴こえる溜息を付いて、
レンが シャーレの 蓋を
カタンと閉めた。

それを なんの事もない様子で、
ハジメが 銀のトレーごと、元のキャビネットへ持っていく。

「あれぇ?そうなの?てっきり、Assoc君は、新婚1年目ぐらいかと思ったのに~。」

カスガに振り返りながら、
意外そうに言う ハジメの言葉に、
カスガは少し照れるような
表情をして、

「あーっ。これでも子供もいるんすよっ。」

すんません。なんか、『どうだっ』て感じ、させてもらうっすよ!
っと、自分を指差して 答えた。

すると、ハジメは 明白さまに
拗ねた顔を作って、

「じゃあ、私も まだまだ だね~。てっきり、その指輪の感じで 新婚かなぁって思ったから。」

と カスガが 自分を指さした方の
手を示した。
だから、カスガは 自分の薬指を
解せない様に マジマジと見る。
うん?なんか 書いてる?指輪に?

「最近、用意したみたいなんですよ、カスガは。でも、こう見えて、結構 やり手なんですよ。ハジメさんと 違ってですね。」

そう言って、レンが
デスク前に立つハジメに 、 カスガは3人の子供のパパだと教えた。
よほど それが
ショックだったのか、
ハジメがカスガを見る目が
据わってくる。

「へぇ~。これは、私がAssoc君に、家庭的結婚の方法を 御教授 頂く べきなのだねん。ん?」

あーっ、心の声が聞こえた。
リア充爆発しろってかーっ。

カスガが 僅かに、
ヒクっと 引きつる。

「そうですね、ハジメさん。それは、またの機会に、しますよ。今日は これで退散いたしましょう。」

レンは 話にキリを付けて、
自分とカスガのグラスを、
デキャンタセットのトレーに片付けた。そして、

「ハジメさん、個人的な事で すいませんが、この指輪のクリーニング、制作した方に、お願いできますか?」

そう言いながら、左手をまるで
結婚会見で お決まりのポーズを
するように、美丈夫の横に添え見せた。
カスガは、隣でそれを見て
余りなスマートさに、
流石っと唸る。

そんな様子を 腕組みをしてから、
一瞬、考えた素振りのハジメが
応えた。

「預りに なるけど~?クリーニング出来たら、郵送で 御返しでも よろしいか Dir ?」

そうハジメは、 カスガから
渡された名刺を ヒラヒラさせて、レンに尋ねる。
レンが、ソファーから腰を
浮かせた。

「大丈夫ですよ。出来たら、自宅へ、送って貰えると、助かります。」

カスガ も慌てて、レンに継いで
立ち上がった。
レンが、手から指輪を抜く
仕草を見せると、

「Dir~! 自宅なら、アドレスいいかな? ついでに 下のアトリエに、 送り状あるから、書いて貰えると~、私は 面倒がないんだけどぉ。」

ハジメは レンを静止して、
自分から 向かって、
ドアを開け示した。

1階の窓も開けているのか、
下からの風が 開け放った
オーナーズルームのドアから
吹き込んでくる。

「わかりましたよ。両足骨折された、ハジメさんを、お姫様抱っこで、階段を、降ろしましょうか?」

レンは、思いっ切りの 笑顔を
張り付けて、 ドアの横に立つ
ハジメを揶揄する。

風に乗って薫る香り?が、
さっき先輩が
ハジメオーナーに
言っていた、
『月下美人』の香りだろうか?
と 呑気に思いつつ、

レンと、ハジメのやり取りを
居心地悪く
見守る カスガだったが、
数分後、
自分が 滝のような汗を
流す事になるとは、

全く 思っても いなかった。