(なんか……偉い人でも来たのかな……)

雰囲気的にそう思い、窓からジッと視線を送っているとドタドタと何かが凄い勢いでコチラに向かって来る音がした。

バターン!! という激しい扉が開く音と共に、突然部屋の中に現れたのは、ちょっと端正な顔立ちをしたシブめなイケメンだった。

「おぉぉぉっ!! ミーア!! 私の可愛いプリンセス~」

そう言うと彼は私を抱き上げて、その場でぐるぐる回る。

「あっ……アノ……どちら様で……」

すると彼は、ハッとなったあとすぐにハラハラと瞳から大粒の涙を流し始めた。

「あっ……あぁぁぁぁぁっ……聞いてはいたが、本当に覚えていないのかい? この世界で一番お前を愛している父様の事を?」

「父……様……?」

「旦那様……もうそのくらいにして頂けませんか? ミーア様がコレ以上困惑されると更に記憶喪失も頭の悪さも悪化するやもしれませんので」

背後から現れたルミエールは恐らくこの家の主人であろう存在を、臆する事なく窘めた。

「ううっ……でも~でも~……」

「でも、じゃありません!」

しまいにはピシャリと言い放った。

渋々と父親だと言うその人物は、私から手を離しその見た目からは想像つかない様な狼狽えぶりで、瞳をウルウルとコチラに向けていた。

「ごめんよ……ミーア……私のせいでこんな事に……」

そして、私の前で膝から崩れ落ち両手で顔を覆って、オイオイと泣き始めた。

さすがの私もここまでされると、逆にどうしたらいいのかわからない。

なんとか宥めようとして、そっと目の前のこの世界の私の父親だという人の肩に手を置いた。

「そ、そんな……えっと、私が階段から足を踏み外したのであって……お父様の責任では……」

お父様……もちろん私は今まで自分の父親をそんな風に呼んだ事はない。
しかし、このトランダル家のご令嬢ならきっとそう呼ぶのではないかというあくまで推測だ。

「ミーア……だが、私がお前にこれからは男として生きて欲しいなんて言ったばかりに……」


はっ?


今、なんて言ったこのオッサン。

「旦那様、そのお話はもう少しミーア様が回復されてからの方がよろしいかと……」

「あっ、ああ……そうかそれもそうだな、ミーア、今の話は忘れてくれ」

「えっ!? いっ、いえ! お、お父様? 男として生きるって……アノ……」

「いや、今はいいんだよミーア、さっもう忘れた忘れた」

はっ?
はぁっ?
忘れられるワケないでしょーが!?