彼女は白いふわふわに、一人ゆっくりと近づいて行った。
「ほら、怖くありませんわ……」
そうして、手を伸ばした瞬間……
ふわふわな真っ白い毛の中から、何とも言えないグロテスクな、その尖端は鎌の様に鋭利になった黒い触手が伸びるのが見えたのだ。
魔物──!?
「危ないっ!!」
「デューイ君!?」
「デューイ様!!」
私は急いで彼女を庇うように覆いかぶさった。
そして、固く目を閉じ、次に襲い来るであろう痛みに備えた。
ハズだったのだが……
一向に痛みどころか衝撃すらない。
恐る恐る目を開けると──
「……っ! ルミエール!?」
私の目の前には、片腕から大量の血を流したルミエールが立っていた。
裂けた制服の隙間からは、カナリ深い傷口が見える。
「おっ、おい! ルミエールっ!! お前っ……」
ルミエールは傷を負ったもう片方の腕だけで、触手を掴んでいた。
「デューイ様……お怪我はございませんか?」
「いや、ケガしてるのはお前の方だろっ!?」
「あ~……っ、久々だったので少々しくじりました……誠に申し訳ありません」
掴んでいた触手をルミエールは思い切り引っ張ると、そのまま魔物の本体を引き寄せ、ケガをした腕でその頭部を掴む。
「こんな雑魚に……傷を負わされるとは……」
小枝が折れたのかと思う音が響く。
魔物は一瞬で、シューシューと煙を上げながらハラハラと白い毛を辺りに散らしてその存在を消失させた。
「うっわ~……スゲー! やるね執事君」
「恐縮です」
「あっ、オレ回復魔法なら得意だから任せてよ! 腕、貸してみ?」
ノアがルミエールの傷ついた腕に手を翳すと、ポウッと温かな光がその掌から溢れ出しスーッと傷口が塞がっていくのが見えた。
ホッとした私の耳に、何処からか声が聞こえる。
「あっ……アノ……デューイ……様」
私の下になったままのセーラが、か細い声を発した。
「あっ……すみません! 咄嗟だったのでこの様な御無礼をお許しください、大丈夫ですか?」
「い、いえっ……アノ……デューイ様……助けて頂いてありがとうございます……」
すぐに体を離そうとしたが、何故かセーラ様に首に腕を回されてしまい起き上がる事が出来なかった。
「セーラ様?」
まるで魂でも抜けた様に、こちらをポーっと見つめている。
一体、コレはどうしたと言うんだろうか。
私は不思議に思って彼女を見つめた。
彼女は何故か目を閉じる。
えっ……?
コレはもしや……