「えっと……つまり、実際は何もない?」

「何らかの障害物はあるだろうけどね~、少なくとも、今オレらが見えている様なモノじゃないって事!」

「それなら、デューイ様が見えている様な簡単な塀に僕達もソレを見る事が出来たら……」

「おぉっ、話が早いね執事君! その通り~んでっ、オレ達にもコイツがデューイ君と同じ簡素な塀にすぐに見える方法があるんだよね~」

なるほど、この塀がホントはただの普通の柵や、なんて事ない外壁ならばここまでみんな苦労して入る事もないってワケか。
でも、そんなすぐに精神的な葛藤に打ち勝って、自分の中の壁を壊す事なんて出来るんだろうか?

「そんな事が出来るのか? 本当に?」

ノアは片目をつぶり任せろとばかり、ウィンクした。

「言ったろ~? コレはオレ達の心が見せてんだって、確かにこうして見えてるモノを、全く違うモノにすぐ見ようとは出来ないけどさ~」

そう言うと、ノアは私の手を握った。

「なんです? ノアさん……どさくさに紛れてデューイ様にそんな……訴えますよ?」

額に青筋を浮かべた、ルミエールの笑顔が引きつる。

「いいから~ほら、執事君もコッチ握って!」

しかし、ノアは全く気にした様子も無く、ルミエールの手を引っ張っり私の手に握らせた。

「じゃあ、ほら執事君は目ぇつぶって……んで、デューイ君はその塀の前ギリギリまで歩いてよ」

「塀の前まで?」

「そっ、オレと執事君は目を閉じてるからさ! デューイ君はしっかり目ぇ開けてオレらの手ぇ握ったまま、連れてって?」

「……まだ意味がよくわからないけど、わかったやってみるよ」

「デューイ様……」

珍しくルミエールがしおらしい。
少し頬を赤らめ照れている様な素振りを見せる。
握っている手に微かに力が込められた。

さすがのルミエールも私と手を握るのは初めてだし、少し緊張しているのかな?

「ルミエール緊張しているのか? 僕がちゃんとお前の事も導いてやるから」

「いえっ、デューイ様……手汗スゴいですね」

うん!
マジ後でコイツぶん殴ろ。

「じゃあ、いい~? あっ、執事君はオレと同じく絶対に目を開けたらダメだからね~」

「わかりました」

「んじゃあ~デューイ君、お願~いっ」

私は、二人の手を引いて塀の方へと進んだ。

「あっ……」

あと少しで塀にぶつかるというくらいのところで、何か薄い膜の様なモノに当たった感覚があった。