「ともかく、今はそんな言い争っている場合じゃないだろ? ノア、君他にも何か知ってるんじゃない?」
ノアはルミエールとの睨み合いをやめ、私の方を見て笑った。
「まあね~……オレの兄貴がココの在校生だから」
「さっき、君が言っていた僕に乗っかるというのは、攻略法を知っているから……なんだろ?」
「ご名答~! さっすがー名家のご子息様だね~話が早~いっ」
「なら、簡単だ僕が君に乗っからせてやるから、知ってる事を話てくれ」
「デューイ様? こんなどこの馬ともわからないヤツを信じるおつもりですか?」
ルミエールはずいぶん不服そうだったが、このよくわからない状況の中で、この学校や試験の知識が全く無い私が突破するのは難しいだろう。
「僕は試験に受かるのなら、今は神にでも縋りたいんだ……」
「んじゃあ~、交渉成立って事でいっかな~? 」
「仕方ありませんね、ですが全くコチラに有益な情報で無かった場合は、それ相応の報いを受けて頂きますので」
執事というより反社会的勢力みたいなルミエールは、相変わらず顔だけは営業スマイルを絶やさない。
それが逆に怖いのだが……。
「チッ……わかってるよ~、コッチだって試験に受かる為必死なんだわ」
ノアは目の前の塀を指さした。
「この、ザ・ウォールってテストは~、自分の中の壁ってヤツだ」
「自分の中の壁?」
「そう、誰にでもあるだろ~? 自分の中の超えられない壁ってヤツがさ~、トラウマだったりプレッシャーだったり、そういうモノが目の前に壁となって現れるワケ~、だから見るヤツによって違ったもんに見える」
「なるほど……」
つまり、私にはそういうものが特には無かったていう事か?
……私にだって悩みの一つや二つはあるんだけど。
だいたい、男装して学校に潜り込むのだってカナリのプレッシャーなんですが?
「しかし、いくら頭空っぽのデューイ様の壁が侵入の容易い物であっても、ノア様の見えている壁と違うのならば、どうする事も出来ないのでは?」
さすがルミエール。
うん、私もそう思ってた。
あと、どさくさに紛れてまた人をディスって来たけどもういちいち構っていらんない。
「オレには兄ちゃんから授かった秘策があっから~、要するにこの壁、見える人によって違うって事は本当はあってない様なモノなんだよね~」
「あって……ない?」
「そっ、本当に壁は存在していないって事!」