「んでっ、この通称・壁超え(ウォールオーバー)っていうの~この学校の入試名物だから~」

「そう……なのか?」

「そうそう~、しかもこの壁っていうのがね見る人によって違って見えるんだよね~」

なるほど。
つまり、この必死で登っている人達にはコレが崖に、ルミエールには城壁に、そして私にはただの塀に見えているって事なのか。

「そういや~、キミはコレが塀に見えるって言ってたよね~?」

「えっ? ああ、そうだけど」

「キミ~、名前は?」

赤髪君は不意に立ち上がり、私にうんと顔を近づけた。

「おや、近頃の輩は最低限の礼儀も知らないのですか? 猿以下ですね」

しかしすぐに、侮蔑の言葉を吐いたとは思えない満面の笑顔のルミエールが、私達の間に立ちはだかり彼を片手で制止する。

「え~っ……キミ何~? キミには聞いてないんだけど~?」

「おやおや、最近の猿は本当によく口が回りますね~」

「ちょ、ちょっと! ちょっと待てお前ら、ココで争ってるより今は大事な事があるだろ!?」

今度は私が二人の間に入った。
どうやらこの二人、出会った瞬間からお互いがお互い合わないと思ったのかもしれない。

「ぼ、僕は、デューイだ、デューイ・トランダル、で、コッチは僕の執事のルミエールだ君は?」

「ああ~、キミ~トランダルの息子か……なるほどねそれで執事付きね、オレはノア、ノア・シュヴェルツェ」

「よろしく、ノア……で、さっき何か言いかけていたようだったけど?」

「あ? あ~……キミならすぐ入れるんじゃないかと思ってさ」

「入れる? ドコに?」

「この壁の中~決まってんだろ~?」

「か……べの中……あっ!? そうか確かに!」

私はこの大変な思いをしてる人達とは違って、大分楽な障害物だ。

ルミエールの城壁や、ノアの水壁よりも俄然簡単に超えられる。
もう、ほぼ入って下さいと言ってる様なもの!?

「じゃ、オレ~キミに乗っかってもいい?」

ノアはニヤっと笑った。

「えっ? 乗っかっるて……?」

「なんですか? 貴方、昼間から変態ですか?」

「え~っ、何~執事君は昼間からそんないかがわしい発想しちゃう系~?」

「貴方こそ、ワザとそんな事を言ってデューイ様を困らせるおつもりでしょ? もう近づかないでもらえます?」

この二人、多分根本的な部分で合わないんだ。
水と油。
歯磨きしたすぐ後のオレンジジュース。
思い出したらちょっと気持ち悪くなって来た。