「そういった性趣向の持ち主の方なのかもしれません」
もちろんそんな答えに納得がいくはずもなく、私は一番近くで張り付いていた人に声をかけてみた。
「あの、すみません……」
木の板で出来た塀に張り付いていた人は、必死な形相でコチラを見た。
「何だよ!? 今、忙しいんだ! 後にしてくれないかっ!?」
「……忙しい?」
塀に張り付く事に、そんなに必死になる理由が全くわからない。
「壁に張り付いて何かの儀式でしょうか?」
ルミエールは不思議そうに、張り付く人々を観察していた。
「お前ら! 見てわかるだろ? 今、オレ達は崖を登ってんだよ!!」
「崖?」
どう見てもただの塀なんだけど……
「この崖を登りきったとこに学校があんだよ!」
そう言って彼らは必死になって塀にへばりつき、時折手や足をその場で滑らせては必死になってまた元の体勢に戻るを繰り返していた。
「うえ~……コレが崖に見えるとか悲惨だね~」
と、突然後ろから声が聞こえて振り返ると、そこにはこれまた私達と同じ制服を着た、赤い髪のちょっとチャラそうな男の子が立っていた。
「あんた達は? コレ、崖に見えんの?」
私とルミエールは顔を見合わせた。
「いや、僕は木で出来た塀だ」
「僕は城壁ですが……貴方は?」
赤髪の彼はその場にしゃがみこんで、満面の笑みを浮かべた。
「オレ? オレはね~水だね、透明な水の壁……でもまあ向こう側見えるし、なんとかなりそうだけど」
「コレが何なのか、君は知ってるのか?」
どうやらこの赤髪君は、この状況を理解している様だ。
「ん~っ…… 入学試験だろ~何~? まさか知らなかったの?」
「知らなかった……」
入学試験があるとか!?
全く知らなかった……。
っていうか聞いてない。
「ココの学校は入学式の直前に入学試験がある事で有名なんだよ~、試験をパスしたらそのままご入学~っていう流れ~」
魔法士になるのには、試験がある事は知っていたが……。
学校に入るのにも、試験がいる?
あっ、でもそれはアッチの世界でも普通だわ。
すっかり向こうの常識を忘れていた。
っていうか、アッチの世界の文化がまさかコッチと同じ事があるなんて、今更ながら驚いた。
いやいや、しかし入学試験なんて大事な事、普通は前もって言うだろ!?
私がルミエールの方を向くと、ヤツは笑いを堪えて俯いていた。
ワザとかよ……
このクソ執事、私が慌てふためく様を見たいが為に……