高校時代まで“いい子”に振る舞っていた。
やりたいことや言いたいことは抑え、周りに気を使って生きてきた。
なのに、周囲の奴らときたら顔がムカツクと言いがかりをつけ、俺様を侮辱するのだ!
「お前の目、本当は人を見下しているだろ?」
「隠しても顔に傲慢さが滲み出ているんだよ!」
俺が尽くしてやった相手に限って、心ない言葉を投げかけてくる!
そのたびに『ああ、そうさ! お前らみたいな奴ら尊敬するわけがないだろう!』と言い返していたのだ。
……あくまで心の中だけでだ。
そんなことを言ってはいけないし、言ったら終わりだと思っていた。
それが興味を持っていた動画配信を始めてから変わった。
最初は普段通りの好青年キャラ通していた。
動画は毎日投稿、一本一本丁寧に作っているのにまるで売れず悩んでいた。
まさに虚無と戦うような日々。
ある日、気分転換に生配信をしたときハプニングが起きた。
通行人インタビュー中に言いがかりをつけられ、あげく顔がムカツクと言われた。 さらには顔パンまでされたのだ!
さすがの俺もカッとなって本性をむき出しにし、相手を罵倒しまくった。
それがバズった!
SNS上で炎上し、無に等しかった視聴者数がうなぎ登りに増えたのだ!
それから俺は変わった。
動画も生配信も相手を煽り、ズケズケものを言うスタイルに変えていった。
コメント欄は荒れ、視聴者からは批難コメントが飛んでくる。
だがそれも人気の証!
圧倒的再生数は俺に自信を付けてくれた。
配信で稼いだ金でファッションを整え、叩かれ上等で堂々とするようになるとリアルでも人気者になった。
底辺だったスクールカーストも急上昇した。
今までは相手の横暴に対し、不満げな顔をしただけで叩かれていたのに、胸に蓄えられていた毒をぶちまけるとそれを周りが楽しんでくれるようになった。
いい人は食い物にされる! いい人を捨てて本音で生きろ!
これが19年間生きた末に俺が得た真理だ。
おそらくレイもそれを感じ取っているのだろう。
悲壮さと決意が入り混じった複雑な表情で叫んだ。
「俺は肉食獣になる! オヤジもミオもその力で守ってやるんだ!」
俺たちと初めて会ったとき極端なまでに狂暴にふるまったのも自信のなさの裏返しのように思える。
相手は弱っている! ここが攻めどきだ!
俯いているガキに、思い切り笑いを浴びせてやる。
「お前のメンタルは豆腐だ! 希望しているような強い獣になれるとは思えん! このまま社会的弱者になってみじめな人生を送るがいい!」
「うぁぁぁぁ! 言うなぁぁぁ!」
「ダンくん!弱っている少年をさらに叩くなど人道的に許せませんわ!」
分かっている……俺だって心が痛む。
だが、やらねばならないのだ……お互いのために!
バズる動画のシナリオはすでに頭の中に描かれている!
「泣くな! なりたいのなら、なれるようにあがけ!」
「あがく……?」
「獣人は十五歳の十五夜にその魂の姿になるのだろう? まだ月が出るまでに40分ばかりある、その間に変わればいい! オオカミの魂に!」
「40分で強くなれってか?」
「心はそう簡単に変えられるものではありませんわ」
窓から見える獣人の町は、すでに薄闇に包まれている。 レイにとって運命の満月も、天へ昇らんとしているのだ。
「お前らは凡人だからそう考えるだろうな! 人間いつだって変われる! 俺は変わった! 人気者の俺様に任せておけ!」
「今から40分で魂をオオカミに変える秘策! そのためには……ここを使うんだ」
頭を人差し指で示してみせる。
「頭を使えってか?」
「違う、髪形だ! ヘアスタイルを変えればお前はオオカミになれる!」
「はあ?」
レイは怪訝な顔をしたがメディは得心したようにうなずいた。
「そういうことですか……」
「バカバカしい……そんな小細工で心まで変われたら、苦労はしねえよ」
憮然としているレイに向け、俺はファイティングポーズをとってみせた。
レイがギロリとこちらを睨む。
「何だ? やんのか?」
「違う、お前も俺様と同じポーズをとってみろ」
レイは首を傾げつつもファイティングポーズをとった
「どうだ、強くなったような気分にならんか?」
「……気分だけならな」
「こうしてカメラを通して見ても、精悍なお顔になっていますわ」
弱気になりかけていたレイの顔に、最初の頃のような好戦性が戻っていた。
「人間など単純なものだ。 外見を変えただけで気持ちも変わる。 肉食獣になった獣人が自信を持ち、草食獣になった獣人が弱気になるのもそういう理屈なのだろう」
「小細工が意外に有効ってことか? 理屈は納得してやる、だが物理的に無理だろ」
レイは五分刈り頭を掻く。
「レイくん、安心なさって。 髪の毛の長さは気にしなくていいですわ。 すべてわたくしに任せて、好きな髪形を選んでくださいな」
メディは自分のスマホを取り出し、ヘアカタログサイトを開いてレイに渡した。
「強そうな髪形か……そんなものあるかな?」
「なかなか見つかりませんわね……モデルさんも線の細い方ばかりですから余計ですわ」
それを横からのぞき込んでいたメディが、ふいに呟いた。
「あら、このモデルさんダンくんと同じ髪形ですわね」
突き付けられたスマホの画面を確認する。
「ツーブロックビジカジフェザーマッシュという髪形だ。 知的でスタイリッシュなイメージを引き立てるヘアスタイルだ、俺様にお似合いだろ?」
シルバーグレーに染めた髪をかき上げてみせた。
配信者として人気者になり、ブランドものの服をそろえ、髪形をこれに変えてから俺はリアルでも人気者になったのだ。
ところが、返ってきた反応は心外なものだった。
「髪形はかっこいいが顔がムカツク」
「ええ、心の底から顔パンしたくなるお顔ですわ」
「お前ら、無礼すぎだろ!?」
協力してやっているのに、胸糞悪いガキどもだ!
せっかく望み通りの強い肉食獣に変身させてやって、ハッピーエンドで終わらせようと思っていたのに!
……復讐せねばなるまい!
まだヘアカタログを見ているレイの焦りを促す。
「急げ! もう時間がないぞ!」
「見つからないんだよ、強そうな髪形ってのが」
レイは焦り始めている。 残り時間は30分とない。
「いいことを教えてやろう、ウルフヘアという髪形が世の中にはある」
「ウルフ? オオカミって意味じゃねえか! それにしてくれ!」
「ウルフヘア? あんなものでいいのですか?」
「あんなものって、どんなものだよ?」
レイはヘアカタログサイトを見ようとしたが、俺はすかさずスマホを取り上げた。
「ダメだ! お前は目を閉じていろ!」
「何で?」
「精神衛生上の問題だ、直視してしまうと施術中に発狂する恐れがある」
「何だ、それ!?」
レイはスマホ画面を確認しないまま怯えたように目を閉じる。 何だかんだ言って従順な奴だ。
メディはそのレイの頭に両掌をかざし、そして叫んだ。
「ヘアーーッ! ゴルゴーン!」」
その叫びに呼応して、レイの髪がゾワッと蠢いた!
毛穴から数万の寄生虫の群れのごとく、髪の毛が這い出してくる!
「キモッ!」
前に一度見たことがある俺様も思わず口に出してしまう。
「あああああああ、気持ち悪いぃぃ~! 何だこれぇぇ!」
伸び始めた髪の毛は、レイの頭上で数万匹の毒蛇の如くのたうっている。
その感触だけで悪寒がするのだろう。 少女のような悲鳴をあげていた。
「レイくん、目を開けてはなりません!」
「どうなってんだ! 怖い! 怖い!」
「お動きにならないで! 髪の毛が毛穴を食い破ってしまいますわ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
完全にグロ動画である。 動画にする際はカットせねばならない。
「ゴルゴーン神族秘伝の頭蛇術ですわ! 形を自由に変えるばかりではなく、色や長さ、量までをも自由に変えられるのです!」
これがメディの魔術である。 自分の髪はもちろん、他人の頭髪をも操れる。
この術がゆえに、メディたちゴルゴーン一族は髪が蛇になった化け物として実態をゆがめられ、神話に汚名を残してしまったのだという。
今、レイの髪はその量を増大させ、くるくるうねうねと変幻自在に踊りつつ姿を変えていった。
「レイくん、もう目を開けてもよくてよ」
数分前はで五分刈りだったレイの髪は、ウルフヘアに変化していた。
「……誰だ、この美少女」
俺の感想がこれだった。
今までドスの利いた表情を作っていたのでその印象がなかったが、レイはかなりの女顔だ。
妹のミオと基本は同じ顔なのである。 彼女が成長したら、やはりこんな風になるだろう。
レイ本人はといえば、鏡を見ながら微妙な顔をしている。
「ウルフヘアってこういうのだったのか……もっとワイルドなのだと思っていたぜ」
名前こそ勇ましいが、肩まで伸びたシャギーヘアである。
「おっと残念、ワイルドな顔が人間すれば、よりワイルドになるんだがお前では“男の娘”にしかならんようだな! これはさぞかし可愛い獣人になるだろう!」
「てめぇ! ハメやがったな!」
「ざまあみろ! 騙されたお前が悪いのだよ!」
気づいたところで遅い。 俺様をコケにした報いである。
「冗談じゃねえ! やりなおしだ! もっとワルっぽいヘアスタイルにしろ!」
怒鳴り声でリテイク要請をしたが、メディはほんわかした顔になっている。
「このままでよろしくありませんか? これほど女性的な少年ならば逞しい男性と素敵な恋物語を繰り広げられそうですわ」
「オレを腐った妄想のネタにするな!」
レイはますます焦りだしスマホのヘアカタログを探しはじめる。
月の出が近づいてきているのだ。
「ああ! もう時間がない! 何か見つけないと!」
この慌てぶりはよい こういうのがウケるのだ!
コケにされた仕返しはできたし、動画的な撮れ高も発生した。
そろそろ当初の予定通り強い獣になる方向で協力してやるか。
実は髪形を変える提案をしたときから、答えは用意してある。
見た目にもインパクトがある動画映えする髪形だ。
おしゃれ系のヘアカタログには載っていないかもしれないが。
普通にネット検索をすれば、おそらく見つけるのにそう苦労はしないだろう。
メディもレイも俺に感謝をし、さきほどの無礼を詫びるに違いない!
俺は自分のスマホを開き、ネット検索を開始した。
「あったぞ、この髪形はどうだ?」
スマホに表示させたのはモヒカンヘアのパンクロッカーの画像だった。
「まあ! ワルワルのワルですわね!」
「いいじゃねえか! ワイルドでイカす!この髪形にしてくれ」
焦りに曇っていたレイの目が見開かれる。
術で早速髪形を変えてもらおうというのだろう、上機嫌でメディの前に座った。
どうにか間に合ったことにほっとしたそのとき、脳裏に得体のしれない不安がよぎった。
「……待て、この髪型はどこかで見たぞ?」
「当たり前だろう、お前が見つけたんだから」
「それはそうだが……」
マンガで見た凶悪なキャラの髪形を参考にしたのだから見覚えがあるのは当然なのだ。
だが、何かが引っかかる。 今日もどこかで見た髪形である気がする。
「お前のせいで時間がなくなったんだろ! これ以上ごちゃごちゃと邪魔をするな!」
「クッ……」
壮絶に嫌な予感がするのだが正体が掴めない
「いいから急いでやってくれ!」
レイに促され、メディは再び施術に入る。
「 女の子のように可愛いレイくんに似合うとは思えませんが仕方がありませんわね……ヘアーーーッ!」
魔術を発動させんとした瞬間だった。
「やめたまえ! モヒカンヘアは!」
嘶きにも似た野太い声とともに、あの男が部屋に入ってきた。
「やめたまえ、モヒカンヘアは!」
言葉を繰り返しつつリビングに入ってきたのは、この家の主でもあるシマウマ父である。
「オヤジ! ミオは?」
立ちあがって問いかけるレイに、うなずきをみせるシマウマ父。
「大丈夫だ、検査はしたが脳に問題はない。 念のため今日は入院させるが、明日には帰って来られるはずだ」
「すまなかった……」
「いいんだ、私も父としてだらしがなさすぎた。 それよりモヒカンはやめるんだ! 父さんと同じ人生を歩むことになってしまうぞ!」
その言葉で俺は、渦巻いていた予感の正体に気づいた。
レイも俺と同じくシマウマ父の頭上を見ている。
父親の頭上に乗っている、“それ“に視線が釘付けになっていた!
「どっかで見たと思ったら、オヤジの髪形じゃあねえか!」
野生のシマウマはモヒカンなのである。 同じものを、シマウマ父も持っているのである。
どこかで見た髪形だと思ったのはこれだったのだ。
「私も15歳のとき弱い自分に暗示をかけ強い獣になろうとしたんだ。 まずは形からと思い美容室に行きリーゼントパンチか、モヒカンか悩んだ。 結局、モヒカンヘアにしたんだが、美容室を出ると友人たちにシマウマみたいだとからかわれてね……」
「それでその姿になっちまったのか……」
「お前には、私の選ばなかった道を歩んで欲しいんだ」
悲しい真実である。
「もう月が昇る、変身が始まってしまうぞ!」
「クッ、何の準備もできてねえ……お前が余計な茶々を入れるから時間が……!」
恨みがましい目で俺をにらみつけるレイ。
このガキ、あくまで俺にマウントを取るつもりか!
気に食わん! どう言い返していいか分からんが、とにかく何か言ってやる!
「お前もモヒカンにすべきだな」
「何でだよ?」
「男手一つで育ててくれた父親の人生を否定するな! お前はその苦労を体で知った方が成長する!」
一瞬、辺りが静寂に包まれた。
レイは意表を突かれたように俺の顔を見つめ、悟りきったかのようにうなずいた。
「かもしれねえ……」
やけくそに出した言葉なのに、予想外に納得されてしまった。
まずい……! このままではレイの人生がめちゃくちゃになる!
父親と同じシマウマなら同じ人生を歩むようにも見えるが、レイは年齢差を差し引いても遥かに精神力が弱い! より悲惨な人生を送るかもしれない。
それを思うと心が痛んできた。
いかん……いつの間にか、またお人よしの弱い俺に戻りかけている……!
再生回数を稼ぐためなら、今回の結末はバッドエンドのほうが都合がいい。
どこの世界でも人の不幸は蜜の味。 ましてやイキっているヤンキーなど酷い目に遭うほうがネット上ではウケがとれるのだ!
このまま放っておけばいいじゃないか! 元の世界に帰るためだ!
数字を稼がないと!
いや……だが良心がうずく……!
葛藤している俺の眼前では、親子の会話がしんみりと続いていた。
「オレはいいんだぜ……オヤジと一緒っていうのも……」
その言葉が、俺の脳裏にある言葉を蘇らせた。
「そうだ、お父さん! さっきモヒカンの他にもう一つ候補があったって言っていましたよね?」
「ああ、あれのことですか? それなら……」
シマウマ父は、棚の扉を開けて、古い木箱を取り出した。
木箱の中には写真の束が入っていた。」
レイやメディも、横から写真をのぞき込んでくる。
「何だこりゃ? とんでもない髪形だな」
「ガラ悪すぎですわ~」
「リーゼントパーマというんだ、父さんが若いころ流行ったヤンキー映画の主人公のヘアスタイルでね。 みんな真似したもんだ!」
チリチリのパーマにした大量の髪が、生え際から砲弾状に突き出している。
「ダセー! 昔はこんなのが流行ったのかよ?」
「い、今の子からしたダサいのか……憧れたんだがなあ……」
シマウマ父は肩を落とした。
「ダメか」
「こんな時代遅れの髪形では」
「仕方がない、元のレイの髪形に戻してくれ、普段通りのレイで変身させるしかない」
「ええ、ありのままのレイ君が一番……かもしれませんわね」
俺たちはそう結論を出したのだが、レイが出した結論は別のものだった。
ところが、レイは意外な結論を出した。
「今すぐこの髪形にしてくれ!」
「リーゼントパーマに!?」
「ダサいが、よく見りゃイカすぜ! オヤジが選ばなかった人生の選択肢、俺が選んでやる!」
「レイ……お前……」
息子の宣言に、シマウマ父の瞳からは涙があふれ出す。
息子は照れたようにそっぽを向き、頭を掻いていた。
「ヘアーーーッ! ゴルゴーン!」
メディは術を再び発動させ、レイの髪形を変えた。
「イカスじゃねえか、気合が入っているぜ」
レイは手鏡の角度を変えながら満足そうにリーゼントパーマを眺めている。
まったく似合っていないし、納得もいかない。
「いいのか父親として? あんなのマイルドヤンキー通り越して、ガチのチンピラだぞ!?」
「いいのです、あの子が望む自分になれるのならば……。 弱いシマウマの子ということでさぞかし辛い思いもしたのでしょう」
だが、この髪形は狂暴すぎる。
シマウマ父が選ばなかったのもそういう理由だろう。
「レイが狂暴な獣になり、その爪で私の皮を切り裂き牙で肉を噛みちぎりたいのなら、そうすればいい。 血肉となって子を育むのが親の役目です」
「お父様……」
「温厚で優しいだけでは、他人様の餌となる人生しか送れないことは誰よりも私がよく知っております」
シマウマ父の言葉は重かった。
「それが獣人社会というものか……いや、あるいは普通の人間の社会も」
その言葉の先を口に出すべきかためらったその時、涼しい風が肌を撫でた。
レイがベランダの戸を開けたのだ。
外はすっかり闇に包まれ、 運命の月は暗き天上へ姿を現している。
「いろいろ迷惑もかけたし、世話にもなったな」
レイが、夜空を背に俺たちに語り掛けた。
その髪はリーゼントパーマに固められていた。
ガラの悪さが女顔にまったく似合っていない。 だがその目は精悍で自信と決意に満ちていた。
「オオカミになってくるぜ」
宵闇の中、地平線の向こうから顔をだした大きな月。
月光を浴びて、肉体が変化し始めた。
齢十五を迎えた獣人は月齢十五の時、その魂を表す獣へと変貌する。
伝説が今、実現するのだ!
「う、うぉぉぉぉ……」
呻き声に伴い、骨のきしむ音が聞こえ始める。
通常の人間ではありえない壮絶な肉体の変化が始まっている。
今、レイを襲っているのはおそらくは激しい苦痛。
それに耐えて大人になろうとしているのだ。
その神聖な姿は直視していることさえはばかられた。
ふと隣にいるシマウマ父の方を見る。
息子が成人する瞬間を見守る父親の表情を確かめたかった。
だが、それを確認することは叶わなかった。
「ヒ、ヒィーーン、ダメです、もう見ていられない!」
シマウマ父は、掌に顔を伏せていたのだ。
「どうしました!?」
「私は余計なアドバイスをしてしまった! あるがままにしてやるべきでしたぁぁ! レイがチンピラになったらどうしよぉぉぉ!?」
「いまさら!?」
「すまない! やっぱりお前がいないとダメだぁぁ! 男手一つじゃ無理だったよぉぉ!」
どうやら天国にいる妻に謝罪しているらしい。
「お父さま、落ち着いてください」
「結果を見るまではまだ分かりませんよ!」
二人でシマウマ父をなだめているうちに、布が裂けるような音が聞こえた。
着ていたジャージの繊維が裂けたのだろう。
レイの全身の筋肉が膨張し、狭かった肩が左右に張り出してくる。
鼻先が長く突き出して、鋭い犬歯を持つ獣の顔へと変貌した。
「おお! あれは!」
「オオカミさんのお顔でしょうか!?」
最後の変化は獣毛だった、白い肌に縮れた獣の毛が生え、覆い尽くしたのだ。
「白い毛……まさか!
「白狼!? うちの息子が白狼に!?」
シマウマ父も息子の変貌に打ち震えている。
「白狼とは?」
「獣人社会において、百年に一度しか現れないと言われる伝説の獣人です。 社会を大きく変える英雄の相だとされています」
「この獣人の町を作った方も白狼なのですわ! 欧州で迫害されていた獣人族をまとめあげて日本に移民した獣人界の偉人、ディミトリも!」
「レイがまさかその白狼に……!」
「ありがとうございますダンさん! 貴方のお蔭です!」
シマウマ父が俺の手を取って目を潤ませている。
息子が大人になる瞬間を見つめる父の横顔。 それをこの目にできたことに、俺は感謝した。
情に流され、本来の意図である炎上とは違う方向に流れてしまった結果だ。
本来の意図とは違う、だが……。
「イケる……!」
伝説の白狼に変身する瞬間、これが話題にならないわけがない。
マスメディアでも話題になり、再生数は思うがまま稼げるだろう。
メディも伝説の動画を撮ったプロデューサーとして栄光を得て、娯楽の神になれるかもしれない!
そうなれば、元の世界に帰れる!
「炎上商法はやはりクソだ! 人に優しく真面目に生きよう! そのほうが視聴者も見ていて気持ちがいいに違いない!」
生き方を元に戻すことを決意しかけたときだった。
遠吠えが月の夜空に響いた。
「ウォォォォォォン!」
少年は白き体を持つ獣人への変身を遂げ終えたのだ。
レイは、変幻した自分の体を無言のまま眺めまわしている。
「……オオカミか? オレはワーウルフになれたのか?」
まだ鏡を見ていないから、自分がどんな獣人になったか確信はできないのだろう。
レイの問いかけに俺とメディは互いに顔を見合わせ、そして答えた。
「オオカミの仲間ではある」
「強い獣か?」
「ああ、狩りも得意だ」
「やったぜ! へへっ、コレのお陰かもな!」
リーゼントパーマをレイは満足げな手つきで撫で上げる。
獣化しても髪形はそれを引き継いでいた。
「リーゼントが似合う獣だぞ……レイ、お前の魂そのままの姿だ」
父親に認められたレイは月に向かって喜びの遠吠えをあげた。
「やったぜ! イカしてるぅ! ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
レイが月に向かって勝利の遠吠えをあげているうちに、シマウマ父が俺たちの腕を引っ張ってきた。
「今のうちに逃げますよ」
「ええ!?」
「真実に気づいたら、ただではすみません! レイが鏡を見てしまったら終わりです! めちゃくちゃキレられますよ!」
「しかし、お父様まで逃げたらレイくんは……」
「一晩も荒れ狂えば治まります! それから改めて話し合えばいいんです!」
「情けなくはあるが、大人のやり方ではあるな」
「レイくんが、こうなるとは思いませんでしたからね……」
俺たちは満月を背後に歓喜の遠吠えするレイの姿を改めて見た。
「まさか、トイプードルだなんて」
レイが変身したのは、獣人族の英雄たる白狼ではなかった。
トイプードルの獣人、ワートイプードル……。
トイプードルは主に愛玩として飼われている犬種。 甘えん坊でフレンドリーだが、時として激しい反抗期を迎え寂しいとよく吠える。 狩りも得意である。
そして何よりリーゼントパーマがよく似合う。
まだ事実を知らないレイは、獣人となった歓喜の雄叫びをあげ続けていた。
「オヤジ! ミオ! これからはオレが守ってやるからな! ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
翌日の早朝、寝室のドアが激しくノックされる音で俺は目を覚ました。
「ダンくん! 開けてくださいまし! 非常事態ですわ!」
現在、俺はゴルゴーン館の一室に寝泊まりしている。 ギリシャ出身のメディが日本に移り住んできた時に買ったという古い洋館だ。
アンティーク家具に飾られた歴史の趣ある部屋だ。
鍵を外してドアを開ける。
「やかましいぞ、どうした?」
メディは薄桃色のネグリジェ姿だ。 貞淑なお嬢様がこの格好で男の部屋に駆け込んでくるというのは、よほどの事態に違いない。
「再生数を見て!」
メディは俺に自分のスマホを突き付けてきた。
画面には昨日アップした動画、“【獣人の町】獣人の正体を変身前に当ててみた!”が表示されている。
動画画面の下に表示された再生回数は……。
「15回か」
「こんなに少ないはずが……バグでしょうか?」
「いや、こんなもんだろ?」
「ええ? わたくしがいつも見ている動画は一晩あれば、少なくとも30万再生はいきますわ?」
「分かってないな、全然分かってない! お前ダメ、全然ダメ! まったくもってダメだ!」
「徹底的すぎるご否定ですわね!」
メディはぷくぅと頬を膨らませている。
「一晩で万単位の再生を稼げるのは人気配信者だけだ! 無名の新人配信者の動画なんて基本的に見てもらえない」
こちらの世界のネット事情も、俺様の知るそれとほぼ一緒である。
人気配信者の動画はとてつもない再生数を日々稼いでいる。
一方で誰にも見て貰えないままネットの片隅に眠り続ける動画も無数にあり、いくら活動しても知ってさえもらえない配信者もいる。
残酷なまでの格差がそこにはあるのだ。
むろん、当初の予定通り炎上させて話題作りをしたり、白狼に変身させて伝説の動画を作ったりできれば一気に再生数は稼げただろう。
だが、そうはならなかったのだ。
「知りませんでした……厳しい道のりになりそうですわね」
メディは一年間で10億再生というとてつもない壁を越えねばならない。
前途の多難さを思ってか、顔に焦りが浮かんでいる。
それに関しては俺も一蓮托生だ。
メディが娯楽の神にならない限り元の世界に帰れないのだから。
「落ち着け、分かり切っていた結果だ……」
自分に言い聞かせつつ、他のデータを探る。
「動画にコメントがついているじゃないか?」
再生数15の動画にコメントをつけるとはヒマなリスナーもいたもんだと思いつつ、コメント欄を見て戦慄した
投稿者名は“獣一中のレイ”
ワープードルになったあのレイのものだったのだ。
「あら、レイくん! 動画を見てくださったのですね?」
メディは呑気に喜んでいるがそれどころではない。
「アドレスを教えていないのにこのチャンネルに辿りついたのか!? あいつ、エゴサしやがったな! 荒らしか? 殺害予告か? 即通報するぞ!」
レイが望まない人生を歩むことが決定づけられた瞬間、それをテーマにした動画なのだ。
しかも俺が余計なちょっかいを出した結果である。
あの田舎ヤンキーは復讐に来るに違いないのだ!
「ダンくん落ち着いて! ちゃんと読んでください!」
メディに言われ、改めてコメントを見直した。
『昨日は世話になったな!ミオは退院してきた、治るまでオレが看病するぜ!』
そんな文面とともに、画像ページへのリンクが貼ってあった。
開いてみるとミオに白い獣毛をモフモフされているトイプードル獣人の画像が出てきた。
激情に任せ妹に怪我をさせたことで落ち込んでいたレイだが、幸いにも兄妹仲にヒビは入らなかったようである。
コメントには続きがあった。
『オレはこれでいいんだ。 狼にはなれなかったが人を楽しませるのは俺にとっても生きる喜びだからな! いつか動画配信者になってお前らのライバルになってやる!』
『お前らの動画面白かったぜ! 仲間に広めておいたぞ!』
さらにもう一枚の画像へリンクが貼られている。
不良少年仲間と肩を組んでサムズアップしているワートイプードルの画像だ。
「ダンくん、ご覧になって! 再生数が!」
カウンターの数字が、どんどん伸びていく!
再生数は102に、にまで上昇していた。
一年間で10億再生という俺たちの目標から見れば足しにもならないような数字だ。
だが、開設したばかりの無名チャンネルとしては大いなる一歩目である。
「あの悪ガキにも、使える部分はあるじゃないか」
動画のコメント欄に、友人たちからのレイへの祝福の言葉が次々に並び始めていた。
言葉は粗削り、文章も内輪向き、誤字や乱文が多い、だが素朴な友情に溢れている。実に田舎のヤンキー仲間らしいやりとりだった。
「バカ丸出しの文章だな」
不良どもにツッコミのコメントを入れて炎上させてやりたくなってきた。
「今回は控えてやるか、こんな小さなところで騒ぎを起こしても仕方があるまい」
俺はレイとその友人のすべてのコメントの“いいね”ボタンを押してやるのだった。
(完)
やりたいことや言いたいことは抑え、周りに気を使って生きてきた。
なのに、周囲の奴らときたら顔がムカツクと言いがかりをつけ、俺様を侮辱するのだ!
「お前の目、本当は人を見下しているだろ?」
「隠しても顔に傲慢さが滲み出ているんだよ!」
俺が尽くしてやった相手に限って、心ない言葉を投げかけてくる!
そのたびに『ああ、そうさ! お前らみたいな奴ら尊敬するわけがないだろう!』と言い返していたのだ。
……あくまで心の中だけでだ。
そんなことを言ってはいけないし、言ったら終わりだと思っていた。
それが興味を持っていた動画配信を始めてから変わった。
最初は普段通りの好青年キャラ通していた。
動画は毎日投稿、一本一本丁寧に作っているのにまるで売れず悩んでいた。
まさに虚無と戦うような日々。
ある日、気分転換に生配信をしたときハプニングが起きた。
通行人インタビュー中に言いがかりをつけられ、あげく顔がムカツクと言われた。 さらには顔パンまでされたのだ!
さすがの俺もカッとなって本性をむき出しにし、相手を罵倒しまくった。
それがバズった!
SNS上で炎上し、無に等しかった視聴者数がうなぎ登りに増えたのだ!
それから俺は変わった。
動画も生配信も相手を煽り、ズケズケものを言うスタイルに変えていった。
コメント欄は荒れ、視聴者からは批難コメントが飛んでくる。
だがそれも人気の証!
圧倒的再生数は俺に自信を付けてくれた。
配信で稼いだ金でファッションを整え、叩かれ上等で堂々とするようになるとリアルでも人気者になった。
底辺だったスクールカーストも急上昇した。
今までは相手の横暴に対し、不満げな顔をしただけで叩かれていたのに、胸に蓄えられていた毒をぶちまけるとそれを周りが楽しんでくれるようになった。
いい人は食い物にされる! いい人を捨てて本音で生きろ!
これが19年間生きた末に俺が得た真理だ。
おそらくレイもそれを感じ取っているのだろう。
悲壮さと決意が入り混じった複雑な表情で叫んだ。
「俺は肉食獣になる! オヤジもミオもその力で守ってやるんだ!」
俺たちと初めて会ったとき極端なまでに狂暴にふるまったのも自信のなさの裏返しのように思える。
相手は弱っている! ここが攻めどきだ!
俯いているガキに、思い切り笑いを浴びせてやる。
「お前のメンタルは豆腐だ! 希望しているような強い獣になれるとは思えん! このまま社会的弱者になってみじめな人生を送るがいい!」
「うぁぁぁぁ! 言うなぁぁぁ!」
「ダンくん!弱っている少年をさらに叩くなど人道的に許せませんわ!」
分かっている……俺だって心が痛む。
だが、やらねばならないのだ……お互いのために!
バズる動画のシナリオはすでに頭の中に描かれている!
「泣くな! なりたいのなら、なれるようにあがけ!」
「あがく……?」
「獣人は十五歳の十五夜にその魂の姿になるのだろう? まだ月が出るまでに40分ばかりある、その間に変わればいい! オオカミの魂に!」
「40分で強くなれってか?」
「心はそう簡単に変えられるものではありませんわ」
窓から見える獣人の町は、すでに薄闇に包まれている。 レイにとって運命の満月も、天へ昇らんとしているのだ。
「お前らは凡人だからそう考えるだろうな! 人間いつだって変われる! 俺は変わった! 人気者の俺様に任せておけ!」
「今から40分で魂をオオカミに変える秘策! そのためには……ここを使うんだ」
頭を人差し指で示してみせる。
「頭を使えってか?」
「違う、髪形だ! ヘアスタイルを変えればお前はオオカミになれる!」
「はあ?」
レイは怪訝な顔をしたがメディは得心したようにうなずいた。
「そういうことですか……」
「バカバカしい……そんな小細工で心まで変われたら、苦労はしねえよ」
憮然としているレイに向け、俺はファイティングポーズをとってみせた。
レイがギロリとこちらを睨む。
「何だ? やんのか?」
「違う、お前も俺様と同じポーズをとってみろ」
レイは首を傾げつつもファイティングポーズをとった
「どうだ、強くなったような気分にならんか?」
「……気分だけならな」
「こうしてカメラを通して見ても、精悍なお顔になっていますわ」
弱気になりかけていたレイの顔に、最初の頃のような好戦性が戻っていた。
「人間など単純なものだ。 外見を変えただけで気持ちも変わる。 肉食獣になった獣人が自信を持ち、草食獣になった獣人が弱気になるのもそういう理屈なのだろう」
「小細工が意外に有効ってことか? 理屈は納得してやる、だが物理的に無理だろ」
レイは五分刈り頭を掻く。
「レイくん、安心なさって。 髪の毛の長さは気にしなくていいですわ。 すべてわたくしに任せて、好きな髪形を選んでくださいな」
メディは自分のスマホを取り出し、ヘアカタログサイトを開いてレイに渡した。
「強そうな髪形か……そんなものあるかな?」
「なかなか見つかりませんわね……モデルさんも線の細い方ばかりですから余計ですわ」
それを横からのぞき込んでいたメディが、ふいに呟いた。
「あら、このモデルさんダンくんと同じ髪形ですわね」
突き付けられたスマホの画面を確認する。
「ツーブロックビジカジフェザーマッシュという髪形だ。 知的でスタイリッシュなイメージを引き立てるヘアスタイルだ、俺様にお似合いだろ?」
シルバーグレーに染めた髪をかき上げてみせた。
配信者として人気者になり、ブランドものの服をそろえ、髪形をこれに変えてから俺はリアルでも人気者になったのだ。
ところが、返ってきた反応は心外なものだった。
「髪形はかっこいいが顔がムカツク」
「ええ、心の底から顔パンしたくなるお顔ですわ」
「お前ら、無礼すぎだろ!?」
協力してやっているのに、胸糞悪いガキどもだ!
せっかく望み通りの強い肉食獣に変身させてやって、ハッピーエンドで終わらせようと思っていたのに!
……復讐せねばなるまい!
まだヘアカタログを見ているレイの焦りを促す。
「急げ! もう時間がないぞ!」
「見つからないんだよ、強そうな髪形ってのが」
レイは焦り始めている。 残り時間は30分とない。
「いいことを教えてやろう、ウルフヘアという髪形が世の中にはある」
「ウルフ? オオカミって意味じゃねえか! それにしてくれ!」
「ウルフヘア? あんなものでいいのですか?」
「あんなものって、どんなものだよ?」
レイはヘアカタログサイトを見ようとしたが、俺はすかさずスマホを取り上げた。
「ダメだ! お前は目を閉じていろ!」
「何で?」
「精神衛生上の問題だ、直視してしまうと施術中に発狂する恐れがある」
「何だ、それ!?」
レイはスマホ画面を確認しないまま怯えたように目を閉じる。 何だかんだ言って従順な奴だ。
メディはそのレイの頭に両掌をかざし、そして叫んだ。
「ヘアーーッ! ゴルゴーン!」」
その叫びに呼応して、レイの髪がゾワッと蠢いた!
毛穴から数万の寄生虫の群れのごとく、髪の毛が這い出してくる!
「キモッ!」
前に一度見たことがある俺様も思わず口に出してしまう。
「あああああああ、気持ち悪いぃぃ~! 何だこれぇぇ!」
伸び始めた髪の毛は、レイの頭上で数万匹の毒蛇の如くのたうっている。
その感触だけで悪寒がするのだろう。 少女のような悲鳴をあげていた。
「レイくん、目を開けてはなりません!」
「どうなってんだ! 怖い! 怖い!」
「お動きにならないで! 髪の毛が毛穴を食い破ってしまいますわ!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
完全にグロ動画である。 動画にする際はカットせねばならない。
「ゴルゴーン神族秘伝の頭蛇術ですわ! 形を自由に変えるばかりではなく、色や長さ、量までをも自由に変えられるのです!」
これがメディの魔術である。 自分の髪はもちろん、他人の頭髪をも操れる。
この術がゆえに、メディたちゴルゴーン一族は髪が蛇になった化け物として実態をゆがめられ、神話に汚名を残してしまったのだという。
今、レイの髪はその量を増大させ、くるくるうねうねと変幻自在に踊りつつ姿を変えていった。
「レイくん、もう目を開けてもよくてよ」
数分前はで五分刈りだったレイの髪は、ウルフヘアに変化していた。
「……誰だ、この美少女」
俺の感想がこれだった。
今までドスの利いた表情を作っていたのでその印象がなかったが、レイはかなりの女顔だ。
妹のミオと基本は同じ顔なのである。 彼女が成長したら、やはりこんな風になるだろう。
レイ本人はといえば、鏡を見ながら微妙な顔をしている。
「ウルフヘアってこういうのだったのか……もっとワイルドなのだと思っていたぜ」
名前こそ勇ましいが、肩まで伸びたシャギーヘアである。
「おっと残念、ワイルドな顔が人間すれば、よりワイルドになるんだがお前では“男の娘”にしかならんようだな! これはさぞかし可愛い獣人になるだろう!」
「てめぇ! ハメやがったな!」
「ざまあみろ! 騙されたお前が悪いのだよ!」
気づいたところで遅い。 俺様をコケにした報いである。
「冗談じゃねえ! やりなおしだ! もっとワルっぽいヘアスタイルにしろ!」
怒鳴り声でリテイク要請をしたが、メディはほんわかした顔になっている。
「このままでよろしくありませんか? これほど女性的な少年ならば逞しい男性と素敵な恋物語を繰り広げられそうですわ」
「オレを腐った妄想のネタにするな!」
レイはますます焦りだしスマホのヘアカタログを探しはじめる。
月の出が近づいてきているのだ。
「ああ! もう時間がない! 何か見つけないと!」
この慌てぶりはよい こういうのがウケるのだ!
コケにされた仕返しはできたし、動画的な撮れ高も発生した。
そろそろ当初の予定通り強い獣になる方向で協力してやるか。
実は髪形を変える提案をしたときから、答えは用意してある。
見た目にもインパクトがある動画映えする髪形だ。
おしゃれ系のヘアカタログには載っていないかもしれないが。
普通にネット検索をすれば、おそらく見つけるのにそう苦労はしないだろう。
メディもレイも俺に感謝をし、さきほどの無礼を詫びるに違いない!
俺は自分のスマホを開き、ネット検索を開始した。
「あったぞ、この髪形はどうだ?」
スマホに表示させたのはモヒカンヘアのパンクロッカーの画像だった。
「まあ! ワルワルのワルですわね!」
「いいじゃねえか! ワイルドでイカす!この髪形にしてくれ」
焦りに曇っていたレイの目が見開かれる。
術で早速髪形を変えてもらおうというのだろう、上機嫌でメディの前に座った。
どうにか間に合ったことにほっとしたそのとき、脳裏に得体のしれない不安がよぎった。
「……待て、この髪型はどこかで見たぞ?」
「当たり前だろう、お前が見つけたんだから」
「それはそうだが……」
マンガで見た凶悪なキャラの髪形を参考にしたのだから見覚えがあるのは当然なのだ。
だが、何かが引っかかる。 今日もどこかで見た髪形である気がする。
「お前のせいで時間がなくなったんだろ! これ以上ごちゃごちゃと邪魔をするな!」
「クッ……」
壮絶に嫌な予感がするのだが正体が掴めない
「いいから急いでやってくれ!」
レイに促され、メディは再び施術に入る。
「 女の子のように可愛いレイくんに似合うとは思えませんが仕方がありませんわね……ヘアーーーッ!」
魔術を発動させんとした瞬間だった。
「やめたまえ! モヒカンヘアは!」
嘶きにも似た野太い声とともに、あの男が部屋に入ってきた。
「やめたまえ、モヒカンヘアは!」
言葉を繰り返しつつリビングに入ってきたのは、この家の主でもあるシマウマ父である。
「オヤジ! ミオは?」
立ちあがって問いかけるレイに、うなずきをみせるシマウマ父。
「大丈夫だ、検査はしたが脳に問題はない。 念のため今日は入院させるが、明日には帰って来られるはずだ」
「すまなかった……」
「いいんだ、私も父としてだらしがなさすぎた。 それよりモヒカンはやめるんだ! 父さんと同じ人生を歩むことになってしまうぞ!」
その言葉で俺は、渦巻いていた予感の正体に気づいた。
レイも俺と同じくシマウマ父の頭上を見ている。
父親の頭上に乗っている、“それ“に視線が釘付けになっていた!
「どっかで見たと思ったら、オヤジの髪形じゃあねえか!」
野生のシマウマはモヒカンなのである。 同じものを、シマウマ父も持っているのである。
どこかで見た髪形だと思ったのはこれだったのだ。
「私も15歳のとき弱い自分に暗示をかけ強い獣になろうとしたんだ。 まずは形からと思い美容室に行きリーゼントパンチか、モヒカンか悩んだ。 結局、モヒカンヘアにしたんだが、美容室を出ると友人たちにシマウマみたいだとからかわれてね……」
「それでその姿になっちまったのか……」
「お前には、私の選ばなかった道を歩んで欲しいんだ」
悲しい真実である。
「もう月が昇る、変身が始まってしまうぞ!」
「クッ、何の準備もできてねえ……お前が余計な茶々を入れるから時間が……!」
恨みがましい目で俺をにらみつけるレイ。
このガキ、あくまで俺にマウントを取るつもりか!
気に食わん! どう言い返していいか分からんが、とにかく何か言ってやる!
「お前もモヒカンにすべきだな」
「何でだよ?」
「男手一つで育ててくれた父親の人生を否定するな! お前はその苦労を体で知った方が成長する!」
一瞬、辺りが静寂に包まれた。
レイは意表を突かれたように俺の顔を見つめ、悟りきったかのようにうなずいた。
「かもしれねえ……」
やけくそに出した言葉なのに、予想外に納得されてしまった。
まずい……! このままではレイの人生がめちゃくちゃになる!
父親と同じシマウマなら同じ人生を歩むようにも見えるが、レイは年齢差を差し引いても遥かに精神力が弱い! より悲惨な人生を送るかもしれない。
それを思うと心が痛んできた。
いかん……いつの間にか、またお人よしの弱い俺に戻りかけている……!
再生回数を稼ぐためなら、今回の結末はバッドエンドのほうが都合がいい。
どこの世界でも人の不幸は蜜の味。 ましてやイキっているヤンキーなど酷い目に遭うほうがネット上ではウケがとれるのだ!
このまま放っておけばいいじゃないか! 元の世界に帰るためだ!
数字を稼がないと!
いや……だが良心がうずく……!
葛藤している俺の眼前では、親子の会話がしんみりと続いていた。
「オレはいいんだぜ……オヤジと一緒っていうのも……」
その言葉が、俺の脳裏にある言葉を蘇らせた。
「そうだ、お父さん! さっきモヒカンの他にもう一つ候補があったって言っていましたよね?」
「ああ、あれのことですか? それなら……」
シマウマ父は、棚の扉を開けて、古い木箱を取り出した。
木箱の中には写真の束が入っていた。」
レイやメディも、横から写真をのぞき込んでくる。
「何だこりゃ? とんでもない髪形だな」
「ガラ悪すぎですわ~」
「リーゼントパーマというんだ、父さんが若いころ流行ったヤンキー映画の主人公のヘアスタイルでね。 みんな真似したもんだ!」
チリチリのパーマにした大量の髪が、生え際から砲弾状に突き出している。
「ダセー! 昔はこんなのが流行ったのかよ?」
「い、今の子からしたダサいのか……憧れたんだがなあ……」
シマウマ父は肩を落とした。
「ダメか」
「こんな時代遅れの髪形では」
「仕方がない、元のレイの髪形に戻してくれ、普段通りのレイで変身させるしかない」
「ええ、ありのままのレイ君が一番……かもしれませんわね」
俺たちはそう結論を出したのだが、レイが出した結論は別のものだった。
ところが、レイは意外な結論を出した。
「今すぐこの髪形にしてくれ!」
「リーゼントパーマに!?」
「ダサいが、よく見りゃイカすぜ! オヤジが選ばなかった人生の選択肢、俺が選んでやる!」
「レイ……お前……」
息子の宣言に、シマウマ父の瞳からは涙があふれ出す。
息子は照れたようにそっぽを向き、頭を掻いていた。
「ヘアーーーッ! ゴルゴーン!」
メディは術を再び発動させ、レイの髪形を変えた。
「イカスじゃねえか、気合が入っているぜ」
レイは手鏡の角度を変えながら満足そうにリーゼントパーマを眺めている。
まったく似合っていないし、納得もいかない。
「いいのか父親として? あんなのマイルドヤンキー通り越して、ガチのチンピラだぞ!?」
「いいのです、あの子が望む自分になれるのならば……。 弱いシマウマの子ということでさぞかし辛い思いもしたのでしょう」
だが、この髪形は狂暴すぎる。
シマウマ父が選ばなかったのもそういう理由だろう。
「レイが狂暴な獣になり、その爪で私の皮を切り裂き牙で肉を噛みちぎりたいのなら、そうすればいい。 血肉となって子を育むのが親の役目です」
「お父様……」
「温厚で優しいだけでは、他人様の餌となる人生しか送れないことは誰よりも私がよく知っております」
シマウマ父の言葉は重かった。
「それが獣人社会というものか……いや、あるいは普通の人間の社会も」
その言葉の先を口に出すべきかためらったその時、涼しい風が肌を撫でた。
レイがベランダの戸を開けたのだ。
外はすっかり闇に包まれ、 運命の月は暗き天上へ姿を現している。
「いろいろ迷惑もかけたし、世話にもなったな」
レイが、夜空を背に俺たちに語り掛けた。
その髪はリーゼントパーマに固められていた。
ガラの悪さが女顔にまったく似合っていない。 だがその目は精悍で自信と決意に満ちていた。
「オオカミになってくるぜ」
宵闇の中、地平線の向こうから顔をだした大きな月。
月光を浴びて、肉体が変化し始めた。
齢十五を迎えた獣人は月齢十五の時、その魂を表す獣へと変貌する。
伝説が今、実現するのだ!
「う、うぉぉぉぉ……」
呻き声に伴い、骨のきしむ音が聞こえ始める。
通常の人間ではありえない壮絶な肉体の変化が始まっている。
今、レイを襲っているのはおそらくは激しい苦痛。
それに耐えて大人になろうとしているのだ。
その神聖な姿は直視していることさえはばかられた。
ふと隣にいるシマウマ父の方を見る。
息子が成人する瞬間を見守る父親の表情を確かめたかった。
だが、それを確認することは叶わなかった。
「ヒ、ヒィーーン、ダメです、もう見ていられない!」
シマウマ父は、掌に顔を伏せていたのだ。
「どうしました!?」
「私は余計なアドバイスをしてしまった! あるがままにしてやるべきでしたぁぁ! レイがチンピラになったらどうしよぉぉぉ!?」
「いまさら!?」
「すまない! やっぱりお前がいないとダメだぁぁ! 男手一つじゃ無理だったよぉぉ!」
どうやら天国にいる妻に謝罪しているらしい。
「お父さま、落ち着いてください」
「結果を見るまではまだ分かりませんよ!」
二人でシマウマ父をなだめているうちに、布が裂けるような音が聞こえた。
着ていたジャージの繊維が裂けたのだろう。
レイの全身の筋肉が膨張し、狭かった肩が左右に張り出してくる。
鼻先が長く突き出して、鋭い犬歯を持つ獣の顔へと変貌した。
「おお! あれは!」
「オオカミさんのお顔でしょうか!?」
最後の変化は獣毛だった、白い肌に縮れた獣の毛が生え、覆い尽くしたのだ。
「白い毛……まさか!
「白狼!? うちの息子が白狼に!?」
シマウマ父も息子の変貌に打ち震えている。
「白狼とは?」
「獣人社会において、百年に一度しか現れないと言われる伝説の獣人です。 社会を大きく変える英雄の相だとされています」
「この獣人の町を作った方も白狼なのですわ! 欧州で迫害されていた獣人族をまとめあげて日本に移民した獣人界の偉人、ディミトリも!」
「レイがまさかその白狼に……!」
「ありがとうございますダンさん! 貴方のお蔭です!」
シマウマ父が俺の手を取って目を潤ませている。
息子が大人になる瞬間を見つめる父の横顔。 それをこの目にできたことに、俺は感謝した。
情に流され、本来の意図である炎上とは違う方向に流れてしまった結果だ。
本来の意図とは違う、だが……。
「イケる……!」
伝説の白狼に変身する瞬間、これが話題にならないわけがない。
マスメディアでも話題になり、再生数は思うがまま稼げるだろう。
メディも伝説の動画を撮ったプロデューサーとして栄光を得て、娯楽の神になれるかもしれない!
そうなれば、元の世界に帰れる!
「炎上商法はやはりクソだ! 人に優しく真面目に生きよう! そのほうが視聴者も見ていて気持ちがいいに違いない!」
生き方を元に戻すことを決意しかけたときだった。
遠吠えが月の夜空に響いた。
「ウォォォォォォン!」
少年は白き体を持つ獣人への変身を遂げ終えたのだ。
レイは、変幻した自分の体を無言のまま眺めまわしている。
「……オオカミか? オレはワーウルフになれたのか?」
まだ鏡を見ていないから、自分がどんな獣人になったか確信はできないのだろう。
レイの問いかけに俺とメディは互いに顔を見合わせ、そして答えた。
「オオカミの仲間ではある」
「強い獣か?」
「ああ、狩りも得意だ」
「やったぜ! へへっ、コレのお陰かもな!」
リーゼントパーマをレイは満足げな手つきで撫で上げる。
獣化しても髪形はそれを引き継いでいた。
「リーゼントが似合う獣だぞ……レイ、お前の魂そのままの姿だ」
父親に認められたレイは月に向かって喜びの遠吠えをあげた。
「やったぜ! イカしてるぅ! ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
レイが月に向かって勝利の遠吠えをあげているうちに、シマウマ父が俺たちの腕を引っ張ってきた。
「今のうちに逃げますよ」
「ええ!?」
「真実に気づいたら、ただではすみません! レイが鏡を見てしまったら終わりです! めちゃくちゃキレられますよ!」
「しかし、お父様まで逃げたらレイくんは……」
「一晩も荒れ狂えば治まります! それから改めて話し合えばいいんです!」
「情けなくはあるが、大人のやり方ではあるな」
「レイくんが、こうなるとは思いませんでしたからね……」
俺たちは満月を背後に歓喜の遠吠えするレイの姿を改めて見た。
「まさか、トイプードルだなんて」
レイが変身したのは、獣人族の英雄たる白狼ではなかった。
トイプードルの獣人、ワートイプードル……。
トイプードルは主に愛玩として飼われている犬種。 甘えん坊でフレンドリーだが、時として激しい反抗期を迎え寂しいとよく吠える。 狩りも得意である。
そして何よりリーゼントパーマがよく似合う。
まだ事実を知らないレイは、獣人となった歓喜の雄叫びをあげ続けていた。
「オヤジ! ミオ! これからはオレが守ってやるからな! ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!」
翌日の早朝、寝室のドアが激しくノックされる音で俺は目を覚ました。
「ダンくん! 開けてくださいまし! 非常事態ですわ!」
現在、俺はゴルゴーン館の一室に寝泊まりしている。 ギリシャ出身のメディが日本に移り住んできた時に買ったという古い洋館だ。
アンティーク家具に飾られた歴史の趣ある部屋だ。
鍵を外してドアを開ける。
「やかましいぞ、どうした?」
メディは薄桃色のネグリジェ姿だ。 貞淑なお嬢様がこの格好で男の部屋に駆け込んでくるというのは、よほどの事態に違いない。
「再生数を見て!」
メディは俺に自分のスマホを突き付けてきた。
画面には昨日アップした動画、“【獣人の町】獣人の正体を変身前に当ててみた!”が表示されている。
動画画面の下に表示された再生回数は……。
「15回か」
「こんなに少ないはずが……バグでしょうか?」
「いや、こんなもんだろ?」
「ええ? わたくしがいつも見ている動画は一晩あれば、少なくとも30万再生はいきますわ?」
「分かってないな、全然分かってない! お前ダメ、全然ダメ! まったくもってダメだ!」
「徹底的すぎるご否定ですわね!」
メディはぷくぅと頬を膨らませている。
「一晩で万単位の再生を稼げるのは人気配信者だけだ! 無名の新人配信者の動画なんて基本的に見てもらえない」
こちらの世界のネット事情も、俺様の知るそれとほぼ一緒である。
人気配信者の動画はとてつもない再生数を日々稼いでいる。
一方で誰にも見て貰えないままネットの片隅に眠り続ける動画も無数にあり、いくら活動しても知ってさえもらえない配信者もいる。
残酷なまでの格差がそこにはあるのだ。
むろん、当初の予定通り炎上させて話題作りをしたり、白狼に変身させて伝説の動画を作ったりできれば一気に再生数は稼げただろう。
だが、そうはならなかったのだ。
「知りませんでした……厳しい道のりになりそうですわね」
メディは一年間で10億再生というとてつもない壁を越えねばならない。
前途の多難さを思ってか、顔に焦りが浮かんでいる。
それに関しては俺も一蓮托生だ。
メディが娯楽の神にならない限り元の世界に帰れないのだから。
「落ち着け、分かり切っていた結果だ……」
自分に言い聞かせつつ、他のデータを探る。
「動画にコメントがついているじゃないか?」
再生数15の動画にコメントをつけるとはヒマなリスナーもいたもんだと思いつつ、コメント欄を見て戦慄した
投稿者名は“獣一中のレイ”
ワープードルになったあのレイのものだったのだ。
「あら、レイくん! 動画を見てくださったのですね?」
メディは呑気に喜んでいるがそれどころではない。
「アドレスを教えていないのにこのチャンネルに辿りついたのか!? あいつ、エゴサしやがったな! 荒らしか? 殺害予告か? 即通報するぞ!」
レイが望まない人生を歩むことが決定づけられた瞬間、それをテーマにした動画なのだ。
しかも俺が余計なちょっかいを出した結果である。
あの田舎ヤンキーは復讐に来るに違いないのだ!
「ダンくん落ち着いて! ちゃんと読んでください!」
メディに言われ、改めてコメントを見直した。
『昨日は世話になったな!ミオは退院してきた、治るまでオレが看病するぜ!』
そんな文面とともに、画像ページへのリンクが貼ってあった。
開いてみるとミオに白い獣毛をモフモフされているトイプードル獣人の画像が出てきた。
激情に任せ妹に怪我をさせたことで落ち込んでいたレイだが、幸いにも兄妹仲にヒビは入らなかったようである。
コメントには続きがあった。
『オレはこれでいいんだ。 狼にはなれなかったが人を楽しませるのは俺にとっても生きる喜びだからな! いつか動画配信者になってお前らのライバルになってやる!』
『お前らの動画面白かったぜ! 仲間に広めておいたぞ!』
さらにもう一枚の画像へリンクが貼られている。
不良少年仲間と肩を組んでサムズアップしているワートイプードルの画像だ。
「ダンくん、ご覧になって! 再生数が!」
カウンターの数字が、どんどん伸びていく!
再生数は102に、にまで上昇していた。
一年間で10億再生という俺たちの目標から見れば足しにもならないような数字だ。
だが、開設したばかりの無名チャンネルとしては大いなる一歩目である。
「あの悪ガキにも、使える部分はあるじゃないか」
動画のコメント欄に、友人たちからのレイへの祝福の言葉が次々に並び始めていた。
言葉は粗削り、文章も内輪向き、誤字や乱文が多い、だが素朴な友情に溢れている。実に田舎のヤンキー仲間らしいやりとりだった。
「バカ丸出しの文章だな」
不良どもにツッコミのコメントを入れて炎上させてやりたくなってきた。
「今回は控えてやるか、こんな小さなところで騒ぎを起こしても仕方があるまい」
俺はレイとその友人のすべてのコメントの“いいね”ボタンを押してやるのだった。
(完)