「ーーそれでしたら、本を読みましょう! 知識の宝庫ですよ!」
まるで、選挙を目前に控えている政治家のような僕の熱い訴えに目の前にいる女の人は何度か瞬きさせた。
呆気にとられてるというよりは驚きすぎて言葉が出ないと言ったところだろうか。
時は令和。ここは都会でもなく田舎でもなく、何の変哲もない街の隅っこにひっそりと佇んでいる古本屋。
古本屋というも中古の本を売っている訳ではなく、偉人が書いた書物が置いてあるような場所。
中は少々ホコリっぽくごちゃごちゃしているが、僕は慣れたから別にいい。
この店は店長の僕とあともう1人従業員がいるのだがまだ来てないようだ。この様子だと今日は来そうにないな。
今日は久々にお客様が来たため必死に本の良さをアピールしているのだが、どうも浮かばれない表情をしている。
僕は床に積み重なっている本を持ち表紙についたホコリを払う。
それからホコリを吸わない程度に軽く息を吸い、ニッコリと微笑んだ。
「貴方、彼氏が裏切って辛い思いをしているのでしょう?」
僕の店に来るのはなぜか何かしら悩みがある人ばかり。
だから僕はそんな人達に本を紹介してあげる。本はたくさんの知識とヒントを与えてくれるから。
それに、ここの本がお客様の宝物になったら本達も喜ぶだろうし。
彼女は縋るような目で数秒僕を見て、コクッとぎこちなく頷いた。
そうこなくっちゃ。
僕は別れを告げるかのように手元の本を見つめ、抑えきれない愛おしさを手に込めて撫でる。
前は茶色い光沢があった革の本だったが、今は色褪せてしまい光沢どころか茶色すらも薄くなっている。
「これは森鴎外さんの本です。この中でも『舞姫』という作品は今の貴方にはピッタリだと思います。時代は明治。舞台はベルリンで主人公の男がとにかく優柔不断で最低なんです」
苦笑を浮かべながら告げ、本を彼女に手渡した。
「貴方も辛い思いをしていると思いますが、いざという時は潔く諦めることも大切です。そうじゃないと、精神がやられてしまいます」
助言というほど助言にはなってないのかもしれないが、僕なりのアドバイスをすると、彼女は両手でしっかりと本を抱きしめた。
そして、「ありがとうございます」と長く綺麗な髪を垂れ下げながら深々とお辞儀をする。
「あの、この本のお代は?」
「お代はいらないよ。大切にしてくれたらそれが本にとっても僕にとっても最高級のお代だから」
僕の言葉に賛同するように窓から入った風によって、机の上にある開かれた本がペラペラと捲れて返事をする。
彼女は「ありがとうございます」ともう一度礼を言うと軽い足取りで店を後にした。
窓からは宝石のような輝きを放つ月の灯りが差し込み、そろそろ店も閉じる頃合。
外に出ると真夏なのに肌を撫でる風はほんのり冷たい。
今日はもう店を閉じよう。
「おやすみ。可愛い可愛い僕の知識達」
まるで、選挙を目前に控えている政治家のような僕の熱い訴えに目の前にいる女の人は何度か瞬きさせた。
呆気にとられてるというよりは驚きすぎて言葉が出ないと言ったところだろうか。
時は令和。ここは都会でもなく田舎でもなく、何の変哲もない街の隅っこにひっそりと佇んでいる古本屋。
古本屋というも中古の本を売っている訳ではなく、偉人が書いた書物が置いてあるような場所。
中は少々ホコリっぽくごちゃごちゃしているが、僕は慣れたから別にいい。
この店は店長の僕とあともう1人従業員がいるのだがまだ来てないようだ。この様子だと今日は来そうにないな。
今日は久々にお客様が来たため必死に本の良さをアピールしているのだが、どうも浮かばれない表情をしている。
僕は床に積み重なっている本を持ち表紙についたホコリを払う。
それからホコリを吸わない程度に軽く息を吸い、ニッコリと微笑んだ。
「貴方、彼氏が裏切って辛い思いをしているのでしょう?」
僕の店に来るのはなぜか何かしら悩みがある人ばかり。
だから僕はそんな人達に本を紹介してあげる。本はたくさんの知識とヒントを与えてくれるから。
それに、ここの本がお客様の宝物になったら本達も喜ぶだろうし。
彼女は縋るような目で数秒僕を見て、コクッとぎこちなく頷いた。
そうこなくっちゃ。
僕は別れを告げるかのように手元の本を見つめ、抑えきれない愛おしさを手に込めて撫でる。
前は茶色い光沢があった革の本だったが、今は色褪せてしまい光沢どころか茶色すらも薄くなっている。
「これは森鴎外さんの本です。この中でも『舞姫』という作品は今の貴方にはピッタリだと思います。時代は明治。舞台はベルリンで主人公の男がとにかく優柔不断で最低なんです」
苦笑を浮かべながら告げ、本を彼女に手渡した。
「貴方も辛い思いをしていると思いますが、いざという時は潔く諦めることも大切です。そうじゃないと、精神がやられてしまいます」
助言というほど助言にはなってないのかもしれないが、僕なりのアドバイスをすると、彼女は両手でしっかりと本を抱きしめた。
そして、「ありがとうございます」と長く綺麗な髪を垂れ下げながら深々とお辞儀をする。
「あの、この本のお代は?」
「お代はいらないよ。大切にしてくれたらそれが本にとっても僕にとっても最高級のお代だから」
僕の言葉に賛同するように窓から入った風によって、机の上にある開かれた本がペラペラと捲れて返事をする。
彼女は「ありがとうございます」ともう一度礼を言うと軽い足取りで店を後にした。
窓からは宝石のような輝きを放つ月の灯りが差し込み、そろそろ店も閉じる頃合。
外に出ると真夏なのに肌を撫でる風はほんのり冷たい。
今日はもう店を閉じよう。
「おやすみ。可愛い可愛い僕の知識達」