バーを後にして、すっかり闇に染まった道を歩きながら腕時計に視線を落とす。その針はギリギリ終電に間に合う時刻を差していた。


「私、まだぜんぜん飲めますよ」


振り向いた俺が何を言うのかを分かっているかのように、彼女の声が先手を打った。どこか挑発するような瞳に苦笑しながらも声を返す。


「ここら辺でやめといた方がいいだろ」

「そんなことないです。でろんでろんに酔った真島さんを見るまで、帰れません」

「だからそんな風になるまで飲まないって」

「帰りたくないです」


一方通行な会話に、思わず口を噤んでしまう。此方をじっと見つめている大きな瞳。突き刺さるようなそれを肌でひしひしと感じながら、一度噤んだ口を再び開いた。


「凛ちゃん、待ってるだろ」


そう言った後で、諭すような声だったかもしれないと思った。羽賀ちゃんもそう感じたのかもしれない。彼女にしては珍しい、さびしそうな笑みがその顔を纏ったのを見て、頭の隅でそう思った。


「真島さんのそれ、優しさなのか線引きなのか、よく分かんないです」

「……」

「どっちなんですか?」