羽賀ちゃんに付いていくままに辿り着いたのは、洗練された雰囲気のダイニングバーだった。


看板は目に付くような大きいものではなく、足元にちいさく置かれているだけ。隠れ家的なものなんだろうか。頭の隅でそう思いながら、店の中へと足を踏み込んだ。


思ったよりも高い天井と、暗い空間にぼんやりと照らされている暖色系の間接照明が、確かに“しっぽりと飲めそう”な雰囲気を漂わせていた。すぐに迎えてくれた店員に通されて、奥のテーブル席に腰を落ち着かせる。

どうやらこの店にはメニュー表がないらしく、客の要望に合わせたカクテルを作ってくれるらしい。


「このバー、お洒落じゃないですか?」


向かいに座った羽賀ちゃんが普段よりも控えめな声を投げかけてきた。バックバーに並べられている様々な種類のボトルを眺めていた視線を彼女の方に向けながら「そうだな」と相槌を打つ。


「よくこういう店、来んの?」

「はい。友達と飲む時はいつも2、3軒目でバーとか行きますよ」

「へえ」

「あ。今、意外とか思いました?」

「ちょっとな」


笑いながらそう言えば、羽賀ちゃんもつられたように笑う。そのタイミングで、オーダーしたカクテルが運ばれてきた。