そんな風に捨てられなかった物も、最近ようやく捨てる事ができた。
名前も知らない、ただ通りがかっただけの川に投げ捨てた。ポイ捨てが褒められた事ではないのは百も承知だったけれど、ゴミとして扱うのはどうしても気が引けた。
どうせならどこかに辿り着いてほしい。もしそれが無理なら。誰の目にも付かない深い場所で眠ってほしい。
そんな思いを抱えながら、決別するようにその川の流れを見つめていた。
「…さあ、どうだったかな」
誰にも言えない想いが、いつまでもしこりのように残ったままだ。
「もう、忘れたよ」
“忘れる”って、一体どういう事なんだろう。一体どう成れば、“忘れた”事になるんだろう。口にしておきながら、そんな事をぼんやりと考えた。
指輪は捨てた。スマホの中に当たり前のように存在していたあの名前も、もうとっくに消した。永遠を誓った関係は儚く散り、描いていた未来は脆くも崩れ去った。
失くなってほしくないものばかりが消えていく中で、失くしてしまいたい痛みだけが心にこびりついている。
あと幾つの物をこの手から手放せば、ほんとうの意味で“忘れた”と言い切れるんだろうか。
「真島さん、お疲れ様です」
可愛らしい声が鼓膜を突いた。ふと我に返って視線を向ければ、覗き込むように俺を見上げる羽賀ちゃんが居た。