まだ一次会が始まって1時間足らずしか経っていないというのに、その場は既に飲み会らしい雰囲気に包まれていた。
がやがやと騒ぎ立てる声と、ケタケタと笑う愉快な声があちこちに飛び交っている。
こっちに来てから、社の飲み会に参加するのは初めての事だった。だから部署を問わずにこうして様々な人が仲睦まじそうにしている光景に少し驚いたりもする。そして田辺が思いの外 酒に弱い質だったという事も、もちろん初めて知った。
「真島さん、俺の相手ばっかりしてていいんすか~?」
「そう思うならちょっと離れろよ」
ぐったりと寄りかかってくる田辺に眉を顰めながらも「ええ~?」と、全く離れる気がないようなへらへらと笑う顔を向けられて、溜め息を零すしかない。
どうやら田辺は酔うとウザ絡みをしてくる奴に変貌するらしい。
自分の中にその情報をしっかりインプットして、次の飲み会では必ず距離を取った位置に座ろうと静かに決意する俺に、再び田辺の声が降り掛かる。
「なんか浮いた話しとかないんすか」
「残念だけどないな」
「真島さんイケメンなのに勿体ねえー。俺が真島さんなら、独身生活を謳歌してますよ。社内の女の子、全員食っちゃいたいっす」
「んなこと言ってると嫁さんに愛想尽かされんぞ」
「独身だったら、の話しですって~。妄想は自由ですよ。ほら、あの事務の子とか超可愛くないすか?」