『先輩』


俺の声に反応したその人はくるりと振り返って愛らしい笑みを見せる。ゆっくりと歩みを進めて『帰ろ』そう言いながらその手を取れば恥ずかしそうに『うん』と頷いた。


もう付き合って一年以上が経つというのに、未だに手を繋ぐだけで頬を赤らめる。本当に、呆れるくらい、いじらしい人だと思う。

そのまま抱きしめたい気持ちをグッと堪えて、小さな手を握り返す。


校舎から外に身を投じれば、冷たい風が頬を切った。思わず身震いしてしまうほどの寒さだ。吐き出す息が白く浮き立つ。

気づけばもう12月になっていた。

今年も残すところ後少し。暦が進めば進むほど、こうして先輩と帰路を辿れる日も、どんどん少なくなっていく。



『こうやって一緒に帰れるのも、あと少しだね』


今まさに俺が考えていたことを口にした彼女に、思わず足を止めそうになる。本気で心を読まれたのかと思った。


俺よりもひとつ年上の彼女はあと数か月もすれば新しい環境へと飛び込んでしまう。たった1年のこの差が、たまらなく憎たらしい。


冬の寒さは少し人を切なくさせるのかもしれない。足元に視線を落とした、隣に立つ愛しい人を見て、頭の隅でそんな事を思った。



『あっくん、聞いてる?』

『聞いてるよ。あと何回だろって真剣に数えてた』

『え、やだ。数えないでよ、余計に寂しくなっちゃう』