別の人生を生きている、もう交わる事のない女のことなんか放っておけと、何度も言い聞かせるように心の中で呟いた。その言葉が、まるで鎖のように足元に纏わり付く。
もうとっくに終わったはずなのに、終わりが見えないなんて、どうかしている。
戻る事も立ち止まる事も許されないのに、どこにも辿り着けないなんて、どうかしている。
呼ばないと決めたはずの名前が口から零れ落ちそうになって、思わず目元を手で覆った。よりいっそう濃くなった暗闇の中、深く吐き出した息がさびしく震えていた。
誰が悪かったのかと聞かれたら、きっと誰も悪くなかったんだと思う。なのにこんなに苦しいなんて、どう考えてもおかしい。それとも誰も悪くないからこそ、こんなに苦しいのだろうか。
もう、よく分からない。
「…ふざけんなよ」
お前から先に手を離したくせに。
俺を捨ててまで欲しかったものを手に入れたくせに。
『寝言で、他の男の名前、呼んでたって』
誰の名前かなんて、絶対に、聞かない。