「あっくん!」



ドアが開く音と共に愛らしい声が響いた。バタバタと駆けよってきた太陽は、ソファに腰掛ける俺にまるでダイブするように抱き着いてきた。

その小さな身体をしっかりと抱き留めたところで、少し遅れて此方に歩いてくる菜穂の姿を視界の隅に捉えた。


化粧を落としたら幼くなる顔は、今も変わらない。例え他の男のものになっても母親になっても、菜穂はいつまでも俺の中で菜穂のままだ。本当に、嫌になるほどに変わらない。



「いっしょに寝よ!」


俺の服をくいくいと引っ張りながら満面の笑みを浮かべる太陽の声の後に「時間、大丈夫?」と俺を気遣う菜穂の声が響いた。

太陽を軽々と抱きかかえてから、首だけでその姿を振り返る。



「平気」

「ほんとに?」

「うん。それに、約束したからな」



変わってしまったものと、変わらないままのもの、一体どちらが多いんだろう。

太陽の頭を撫でながら、そんな事を思った。どうせ答えが出ない自問に過ぎない。頭の隅に追いやって、リビングを後にした。