ビルを後にして、大通りから一本入り組んだ路地に入る。太陽を間に挟むように3人で並んで歩く光景は、異様としか言いようがないものだった。
ふと、向かいから現れた家族とすれ違う。5歳くらいの小さな子供の両傍らに、父親と母親らしき人物が笑顔でその子供の手を取る。まるで俺たちのような構図だった。
すれ違う人には、俺たちがどんな風に映っているのだろう。ありふれた家族として、映っているんだろうか。
そんな事をぼんやりと考えていたところで、菜穂の声が鼓膜を揺さぶった。
「ごめんね、付き合わせちゃって」
横目で此方を見遣りながら眉を下げて笑った菜穂に、首をゆるく横に振った。
「別に気にしてねえよ。俺もこっちだし」
「…そっか、ありがとう」
感謝されるたび、惨めな気分になる自分に嫌気が差してしまう。感情をやり込めるように息を吐く俺の隣で、太陽が車道を走るトラックを見かけるたびに「うわあ」と興奮に染まった声を上げる。その様子に心が和らいだ。
まるで家族みたいな構図で、そんな言葉とはもう無縁の位置にいる自分を引き連れて、歩いている。異様すぎて、誰かに笑い飛ばされたい気分だった。
「あ。ここ、左」
四つ角に差し掛かったところで、そう言った菜穂の声に一度足を止める。菜穂たちが左に行くところで、俺が進むべき方向は右だった。