辿るように視線を落とせば、いつの間にか向かいに立っていた太陽が、俺の手をきゅっと握り締めていた。


「あっくん」


俺を呼ぶ、舌足らずな声。

低い位置から注がれる瞳は、穢れや淀みを全く知らない、どこまでも澄んだものだった。



「いっしょにかえろ?」


こてんと傾げられた首がなんとも愛らしくて、とてもじゃないけれど無下にはできないと思った。

ベンチに腰掛けたままの菜穂にちらりと目を向ければ、此方を見つめていたらしい瞳と視線がぶつかる。どちらが先に口を開くのか、まるで見定めるような目を、互いにしていたと思う。




「ここまで、歩いてきた?」


結局、無言の時間を先に終わらせたのは、俺の方だった。
俺の問いかけに、菜穂は頷きながら開口する。



「うん。…真島くんは?」

「俺も、歩き」


淡白にそう返す俺の手が、くんっと前に引っ張られる。視線を落とせば「かえろ」と、もう一度そう言いながら見上げてくる太陽を捉えた。



「…そうだな」


俺の手には余るほどに小さな頭を、できるだけ優しい力で撫でつける。




「一緒に、帰るか」



そう放った言葉に、深い意味はなかった。