「ひとりで帰れる?」

「はい!それはもう、全然大丈夫です!」


敬礼でもしそうな勢いで頷いた羽賀ちゃんにまた笑みを零しながらも「気を付けてな」と、その頭を軽くポンと叩いた。へへ、と少し照れたようにはにかむ顔が、俺を見上げる。


「じゃあ、また明日、会社で」

「ああ、また明日」

「真島さん」

「ん?」

「次は、ディナー行きたいです」


捨て台詞のようなものだった。

まるで悪戯が成功したような笑みを浮かべた羽賀ちゃんは俺の返事を待たずに踵を返す。ベンチに座っている菜穂に「じゃあね」と手を振り、颯爽とその場から去って行った。

本当に嵐みたいな子だな、と、頭の隅でそんな事を思った。




「……」

「……」


取り残された俺たちの間に沈黙が漂う。いつまでもこうしてこの場で突っ立っているわけにもいかず、羽賀ちゃんに続いて“じゃあ”と踵を返そうとした、その時。


だらりと垂れていた俺の手に、温かい何かが触れた。