つられるように頬を緩ませた菜穂が「そっか」と呟いた後、再び俺に視線を向ける。「ありがとう」と二度目のお礼を言われて「どういたしまして」と、さっきと同じ言葉を返した。

ベンチの端にショップ袋を置いた菜穂は太陽の隣に浅く腰掛ける。





「小夏ちゃんと、一緒に住んでるの?」


息子の頭を愛おしそうに撫でながら、そんな言葉を投げかけてきた。

なんの脈絡もないようないきなりの質問に、思わず「は?」と乾いた声が口から零れ落ちた。



「…なんでそうなんの」

「いや、だって…掃除機がどうとか言ってたから…」



子供の燥《はしゃ》ぐ声が溢れる空間で、ぼそぼそと言葉を紡ぐ俺たちは、きっと形容しがたい雰囲気を纏っているに違いないだろう。


「そういうんじゃないから」と否定した俺も「そっか」と呟くように相槌を打った菜穂も、お互いに目を合わせようとはしなかった。