「あっくん、降りれない」


俺とほぼ同じ目線まで来たところで、輝くほどの笑顔から一変して泣きそうな表情になった。

だろうな、と心の中で呟きながら苦笑にも似た笑みが零れる。


空いている左手を伸ばし、小さなその身体に回す。その軽さに驚きつつも、落とさないようにしっかりと抱き留めれば、身体と同じく小さな手が俺の服をぎゅっと握りしめた。



「うわあ!高い!すごーい!」


はしゃぐ横顔を見つめる目を思わず細めた。それは眩しい日差しを浴びている時の感覚によく似ていた。


それにしても、見れば見るほど菜穂に似ている事に気づく。初めてこいつを見た時、どうして菜穂の子供だと気付かなかったのか不思議に思うくらいには似ている。


黒目がちな瞳も、少し丸い鼻も、小ぶりな唇も、眉の形さえもそっくりだ。ここまでくると、菜穂がひとりで創り上げた存在なんじゃないかと思ってしまう。

そんな有り得ない事を真剣に考えている自分にまた苦笑する。