ちいさな子供は目まぐるしく興味の対象を変える。


俺の頭上で彷徨うようにふわふわと揺れる黄色の風船をちらりと見上げてから、その事実をひしひしと感じていた。



「ねえ、見て!!」


投げかけられた声の方向に視線を向ければ、木製のジャングルジムのようなものに足を掛けた太陽が、輝くほどの笑顔で俺を見つめる。

すごい?と聞かれ、うん。すごいな、と答えて笑った。


風船を配っていた後方にキッズスペースがあって、それを見つけた太陽に手を引かれるままここに居る。あれだけ欲しがっていた風船にはもう目もくれず、目の前の広場に夢中だ。

呆気なく興味をなくされた風船は、俺の頭上で揺れ続けている。



「あっくん」


俺をそう呼ぶのはこの世界で菜穂だけだと思っていた。なのに突然 目の前に現れたこいつは、随分前からそう呼んでいたようにその愛称を口にする。