真っ直ぐに前へと向けた視線はなんの変哲もない廊下を映し出す。この先にはデスクがあって、そこには自分が担うべき仕事が待っている。だから、歩いていけるんだろう。



どこまで続くか分からない、辿り着ける場所があるのかも分からない、そんな道を歩き続けていけるほど、俺もあいつも強くなかった。

ただその事実だけが、今も現実に転がっている。





「俺は、授かれなかった方だから」




遣る瀬無さをそのまま音にしたような声だなと思っていれば、隣を歩いていた田辺の足が止まった。倣らうように足を止めて振り返ると、捨てられた子犬のような顔が此方を見つめていて思わず噴き出す。



「なんつー顔してんだよ」

「だって…」

「もう終わった事だっての」


そう、もう終わった。あの日に、もう何もかもが終わったんだ。


言い聞かせるように心の中でそう繰り返しながら、田辺の頭をくしゃくしゃと撫でつける。「ちょ、やめてくださいよ」と焦った声を出す田辺に声を出して笑った。



「生まれたら会わせろよ」


最後にポンポンと軽く叩いて頭から手を離した俺を見上げた田辺は「はい、もちろん!」と頷きながら、いつものように眩しいほどの笑顔を浮かべた。