途切れる間際のような小さな声を辛うじて拾い上げたらしい羽賀ちゃんが「あ、ほんとだ」と声を上げた。
「菜穂ちゃ~ん!!」
数メートル先に居るその人物の耳にまで難なく届いてしまう通りのいい声に、関係のない人の視線まで集める。その中で、ワンテンポ遅れながらも菜穂のその視線が真っ直ぐ此方に向いた。
ここまで偶然が重なると、誰かしらが裏で細工しているんじゃないかと思う。寧ろそうだと言われなければ納得できない気さえした。
瞳を丸くした菜穂が、俺と羽賀ちゃんに向かって歩みを進めてくる。
こんなに沢山の人が行き交う中で、俺の視線は寸分も違《たが》う事なくその姿を見つけてしまった。こんなの馬鹿らしすぎて、特技にすらならない。
「小夏ちゃん?偶然だね」
「ほんとすごい偶然~!太陽くんと2人でお出かけ?」
「うん、そうなの。子供服がセールしてるって聞いて、来ちゃった」
「え、まじで!?どこの子供服?」
興奮気味な羽賀ちゃんに菜穂は「えっとね…」と零しながら鞄の中から取り出したスマホを操作する。その画面を覗き込んだ羽賀ちゃんはいつにも増して大きな声を上げた。