「チョイスがまさかすぎて笑います」

「まじでそれしか思いつかなかった。あれ欲しいんだよ、コードレスのやつ」

「え、分かります!私もコードレスの掃除機ほしい!」

「やっぱ?あれいいよなあ、すげえ便利そう」

「絶対便利ですよ~!でも今あるのがまだ使えるし、って思うとなかなか手が出せなくて…」

「あー分かる。俺もそんな感じ」


取るに足らない、他愛もない会話を繋げながら、駅ビルの中へと足を踏み入れる。自動ドアを潜り抜けると、外の蒸し暑さを帳消しするような、ひんやりとした冷気に包まれた。

さすがに休日なだけあって、中はもう既にたくさんの人が行き交っていた。そのざわめきに混じって、俺だけに向けられた声が響く。



「ちょっと見に行ってみます?」

「うんって言いたいところだけど、店員にゴリ押しされたらまんまと買う人間だからなー俺」

「あはは、真島さん、押しに弱いんですか?」


その問いかけに、数秒考え込む。少しの間を置いて、そうかも、と笑いながら声を紡いだ、その時だった。

行き交う人々の中、見知ったシルエットが視界に過り、ふと足を止めてしまう。




「…菜穂、」


もうそれは呼んだとか言ったというよりも、零れ落ちたようなものだった。