「真島さん、お腹空いてます?」

「ん、ちょっと空いてる」

「じゃあ何か食べてからショッピングしましょうか!」



まさか自分が年下の女の子にこんな風に手を引っ張られて歩く日が来るなんて、思ってもみなかった。


俺よりもひとつ多く生きた長さを更新し続ける菜穂と一緒にいるときは、そのたった一年の差に思い悩む日々だった。常に先を行く菜穂に置いて行かれたくなくて、いつも必死だった。大人ぶりたいくせに、その必死さが仇《あだ》となって、あの時の俺は恥ずかしいくらい子供じみていたように思う。


もう随分とそんな自分しか見ていなかったから、今この現状をどこか他人事のように見つめてしまう。


大人ぶりたかった過去の俺は、いつもこうして菜穂の手を引っ張っていた気がする。

振り向くといつもやわらかい笑みが俺を見つめていて、それがたまらなく愛しかった。




「イタリアンとかどうです?」


少し首を捻ってそう問いかけてくる羽賀ちゃんが、あの頃の自分と重なる。

「イタリアン、いいな」と返事をしながら極めて優しい力でその手を握り返せば、少し前を行く羽賀ちゃんは以前チャームポイントだと言っていた八重歯を見せつけるように愛らしく笑った。