「て言ってもこっちに帰ってからは一度も行ってないんだけどな」

「あ、そうなんですか?じゃあ他に趣味とかは?」

「んー…」


短くなった煙草を灰皿に擦りつけながら首を捻る。

学生の時は釣りやサーフィン、ツーリング、と多方向に手を出していたけど、今ではからっきしだ。



「特にないな」


こうして言葉にするとどれだけ自分が充実とはかけ離れた生活をしているかが浮き彫りになる。

菜穂と別れてから、何もかもがどうでもよくなってしまった。怠惰に塗れた呼吸を繰り返し、やり過ごすだけの日常を辿ってきた。足元に絡まりつく泥濘《ぬかるみ》のような後悔を払拭できないまま、ずっと、燻っている。

我ながら情けなさすぎて笑ってしまう。


「引きこもりってやつですか?」

「そうかも。ってか、それだな」

「ええ、お出かけとかは?」

「こっちに帰ってきてからは全然。なんせいろいろ変わってるし、よく分かんねえんだよな」


言い訳とも取れる御託を並べた俺に羽賀ちゃんはパァッと花が咲いたような笑顔を見せた。何かを閃いたようにパンッと両の手を合わせ「じゃあ!」と声を上げる。


「一緒にお出かけしましょう!」

「え、?」

「私が案内します!ね!ね!?」


ズイッと顔を寄せられて、思わず仰け反るように距離を取ってしまう。そんな俺をにんまりとした笑みで見上げてくる。




――例えるなら、嵐みたいな子だった。