「だから、すごいなって感心したり尊敬する事はあっても、引くとか絶対ない」
「…」
「まあ、飽く迄 俺はそう思うってだけだけど」
世の中には人の数だけ考え方や捉え方があって、みんながみんな俺みたいな思考を持っている訳ではない。
そういう意味を込めてそう付け足せば、羽賀ちゃんは泣きそうな瞳を見せた後、娘の肩に額を押し付けるようにして「うぅ~…」と小さく唸った。
「なんか、泣きそうです」
「…それは、困る」
「困るんですか」
「慰めるの下手なんだよ、俺」
「じゃあ泣きません」
娘を抱きしめる腕の力をいっそう込めた羽賀ちゃんは、続けてくぐもった声を出す。
「泣かないんで、ひとつお願いしてもいいですか?」
「…なに?」
「…頭、撫でてください」
「…」
「…お疲れ様って、言ってください」
普段からは想像もつかないくらい弱々しいその声に、胸の奥が苦しくなった。この華奢な身体に、一体どれだけ沢山のものを背負い込んでいるんだろう。どれだけ想像を巡らせたところで、それはきっと、当事者にしか分からない。
だからこそ、無性にその頭を撫でてあげたいと思った。
伸ばした手で、そっと羽賀ちゃんの頭に触れる。その瞬間、微かに揺れた肩に少し笑みを零しながらも、その形を沿うように、極めて優しい力でそこを撫でた。
「毎日、お疲れ様」
何度だって掛けてあげたい言葉だと思った。
何度だって掛けてもらっていい言葉だと思った。