茶化すようなふたつの笑みが向けられて、真似るように俺も破顔した。こうしてネタにされる方が幾分か心が軽くなる気がしたからだ。
…失恋、か。
もうとっくに失っていたけれど、改めてその事実を突きつけられたような感覚だった。俺の知らない相手と、俺が知り得なかった未来を歩いて行っているのか。そう思えば思うほど、懲りずに胸が締め付けられる。
「だーめですよ!せっかく夏を迎えるっていうのに、そんな暗い顔はだめです!」
楽しいことをしましょう!と、とびきりの笑顔でそう言われて「楽しいこと?」と復唱するように尋ねた。そんな俺に羽賀ちゃんは人差し指を天井に向かってピシリと差しながら、笑顔を貼り付けたまま口を開く。
「手始めにバーベキューとかどうですか?」
「バーベキュー…」
「あの、炎天下の中で肉とか野菜とかをじゅうじゅう焼くやつです」
「それは知ってるって」
「なら話しは早い!実は毎年この時期に田辺くんの知り合いと私の知り合いをたくさん呼んで、バーベキューするのが恒例行事になってるんです!」
「へえ?」