「再婚、しないんすか?」
なんの前触れもなく聞かれたそれに、煙草を口元に持って行こうとした手が一瞬止まる。薄い紫煙を吐き出しながら「…さあ」と、煮え切らない返事しか出来ない自分に苦笑が零れた。
「離婚してどのくらい経つんすか?」
「5年くらい?」
「もう5年でしょ?そろそろ次いってもいいんじゃないんすか?」
“もう”5年なのか、“まだ”5年なのか。俺にはそれすらもよく分からない。あの日から、世界の全てが止まってしまっている気がする。なんて、そんな柄にもない事を考えてしまう心を掻き消すように、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。
「お前はどうなんだよ、奥さんと」
喫煙所を出て、デスクに向かう途中でそう話しを振ると、田辺は首裏を掻きながら少し照れ臭そうにはにかんだ。
「へへ、実はですね、2人目できたんすよ」
向けられた笑顔が眩しくて、思わず目を細めた。胸の辺りがじわりと温かくなって、田辺の眩しい笑顔につられたように口角が上がる。