その人は丁寧に止血を施した後、ガーゼに包んだ保冷剤を俺に手渡した。



『あ、そうだ。これ書かなきゃ』


大人しくそれを患部に当てていると思い出したかのように声を上げ、机の上に無造作に置かれていたバインダーを手に取った。


そこに挟まれているのは【利用者名簿】と記された紙。

その一覧の一番下となる空白に走らせたペンが当たり前のように“真島”と、俺の名前を綴った。



『俺の名前、知ってるんですか?』


ぱちくりと目を瞬《しばたた》かせながらそう聞けば、ペンを止めたその人はにっこりと笑いながら横目で俺を見遣った。


『そりゃぁ知ってるよ。真島くん、目立ってるし』


含みのある言い方でそう言われて思わず首を捻る。入学して数ヶ月が経つが、これといって上級生と関わるような行事はなかったはずだ。

一体、俺の何が目立っているっていうんだろう。



『でもさすがに下の名前は知らないなぁ。…なんていうの?』

『あきら、です』

『あきら?漢字は?』

『太陽の、陽』

『…それで“あきら”って読むの?』

『はい』


俺が頷いたのを確認した後、白い紙の上に再びペンが走る。確かめるようにゆっくりと自分の名前が記されていく様子を見るのは、なんだか変な感じだった。

見慣れない文字で綴られた“陽”の字を意味もなく見つめる。


なんの前触れもなく、ふと視線を上げたその瞳と視線が絡まった。ふわりとやわらかい笑みを向けられて、心臓が少し、収縮する。





『すごく素敵な名前だね』



そんな言葉と笑顔に、あっさりと心を持っていかれた。