『うわあ…痛そう。一体何してたの?』
『なんか、プラカードが直撃して』
『やだやだ、痛そう』
本当に痛そうに顔を歪めた後、パッと俺から距離を取った。その反動で、高い位置に結い上げられた艶やかな黒髪がパサリと揺れる。
『んー…とりあえず冷やした方がいいのかな…』
そう呟きながら、保冷剤やガーゼを次々に机の上に準備するその姿をぼんやりと見つめる。
『先輩、』
上履きの色を確認してからそう呼べば、黒目がちな瞳が手元のガーゼを通り越して、俺に向いた。
『先輩は、なんでここに?』
『あ、私?』
『はい』
『私はたまたまここを通りかかっただけなんだけど先生が急用で呼び出されてて。流れで留守番することになったの』
そう説明しながら此方に距離を詰めたその人は、血が滲んでいるであろう箇所に消毒液を含ませたガーゼをそっと押し当てた。
じりっとした痛みが走り思わず眉を顰めた俺に『ごめん、痛い?』と、柔らかい声が問いかけてくる。
その響きに痛みが和らいだ気がして、首を横に振った。