リビングに行くと、ソファの近くで横たわるお母さんが目に入った。
「…あれ、さっきまで起きてたのに」
呟きながら、お父さんはぼくをそっと床に下ろした。とたとたとその場まで駆けよれば、寄り添うみたいに目を閉じて眠っているふたつの寝顔を視界に捉える。
「遊び疲れて、寝ちゃったんだな」
しゃがみ込んだお父さんが、お母さんの頭を撫でる。ぼくも真似するみたいに、お母さんの隣で眠る小さな女の子の頭を撫でた。
「ふたりとも、おんなじ顔して寝てるね」
ぼくの言葉に笑顔を浮かべたお父さんは「親子だからな」と言った。
去年。クリスマスが間近に迫った寒い世界に、ちいさな命が生まれてきた。お母さんはその子がぼくたちの元に来てくれたことを『奇跡だよ』と言っていた。
お父さんとおんなじ、茶色い目をした女の子。
お母さんとおんなじ、丸い鼻をした女の子。
「美空《みそら》ちゃん」
何度呼んでも、ぼくはその響きがだいすきになる。だいすきでたまらなくなって、早く起きてくれないかなあと、その茶色の目に映される瞬間を、いつも楽しみにしている。
「早く起きてね」
起きて、あのキラキラした笑顔をぼくに向けてほしい。いつもみたいにいっぱい遊んで、いっぱいいっぱい、思い出を作りたい。
お父さんとお母さんがぼくにくれた、ちいさくて いとおしい奇跡《いもうと》を、ぼくはこれからもずっと、大切にしていきたい。