「あれはもう終わった?」
階段を一段一段下りながら、お父さんの声がぼくに問いかけてくる。
「あれって?どれ?」
「えーっとなんだっけ、作文みたいなやつ」
「夏の思い出?」
「そう、それ」
夏休みの思い出をひとつ、書き出さなければいけない宿題があった。ひとつだなんて難しいことを言うと思った。とてもひとつには絞れないくらい、今年の夏もたくさんの楽しい思い出ができた。
「もう書いたよ」
「すげえじゃん。何書いた?」
「すごく迷ったけど、誕生日会のことにした」
8月17日。夏休みの真っただ中にあるぼくの誕生日。近所の子や小学校の友達がいっぱい集まってくれた。
「みんな祝ってくれたし、楽しかったな」
「うん!」
たくさんのプレゼントも、おいしい料理も、電車の形をしたケーキも、ぜんぶぜんぶ嬉しかったけど、ぼくが一番嬉しかったのは、去年の誕生日会にはいなかった存在が、ぼくのとなりで笑っていてくれたことだと思う。