「私の出る幕がないくらいあっさり成立しましたけどね」
羽賀ちゃんの言う通り、菜穂とその相手の離婚は驚くほどにあっさりとしたものに終わった。親権やら何やらで揉めるに揉めるんじゃないかと危惧していた俺にとって、それは肩透かしを食らったような気分だった。
「まあ何はともあれ、よかったですね」
果たして“よかった”と言っていいのだろうか。揉めてほしかったわけではないけれど、それでも喜ぶのは不謹慎な気がして、曖昧に笑うのが精一杯だった。
「菜穂ちゃんと、しばらく会ってないんですよね?」
離婚が完全に成立して、全ての手続きを終えるまでは会わないでおこうと決めた。お互いにとってそれがベストだと思ったからだ。
「まあ、うん。俺も仕事で忙しかったし」
「ふうん」
言い訳のような言葉を並べた俺を羽賀ちゃんはにやにやした笑みを携えて覗き込んでくる。思わず距離を取りながらも「なんだよ、その顔」と眉を寄せれば、彼女は意地悪く口角を上げてみせた。
「菜穂ちゃん、言ってましたよ」
「…何を」
「“会ったらきっと私、我慢できなくて、あっくんのこと困らせちゃう”」
「……」
「“だから会わないって決めたの”」
「……」
「“でも本当はすごく会いた――”」
「もういいって」